蜘蛛の糸、十八本目 ページ19
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そうして幻から目が覚め、仙人修行の成功を目前にして、失敗して戻った青年への仕打ちは、陰惨というほかありません。
仙人はただ、青年の無礼と心の弱さとを詰るのです。
そこに子を思う母の心を解するといった、人間的心持ちへの理解は存在しません。
……中国のお話は随分と、残酷なお話が多いものです。
そうはわかっていても、この白話小説は酷く残酷な世界を描いているものだと、私が嫌っている作品の一つでした。
龍之介に話したは良いものの、
気分が乗らずに途中でやめてしまっていた物語でしたから、この先は彼が原文を読みでもしていなければ知る由もありません。
彼はどうしてこのような血なまぐさい話を、子供に聞かせているのでしょうか。
不思議でならないと話を聞いておりますと、龍之介は少し考えながら、
再びぽつぽつと語り始めました。
「…………二人がこの岩の上に来ると、仙人は男を絶壁の下に坐らせて、こう言った。
『おれはこれから天上へ行って
多分おれがいなくなると、いろいろな魔性が現れて、お前をたぶらかそうとするだろうが、たとえどんなことが起ろうとも、決して声を出すのではないぞ。
もし一言でも口を利いたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟をしろ。好いか。天地が裂けても、黙っているのだぞ』
それに男がうなづくと、老人は別れを告げ、又あの竹杖に跨って、夜目にもったような山々の空へ、一文字に消えてしまった。
男はたった一人、岩の上に座ったまま、静かに星を眺めていた。
すると彼是半時ばかり経って、深山の夜気が肌寒く薄い着物に透り出した頃、突然空中に声があって、
『そこにいるのは何者だ』と叱りつけた。
これから、この男の身には、幾度となく脅すような声が届くようになるのだ。
初めは、『返事をせねば、たちどころに命を奪う』と声がした。
しかし男は仙人の教え通り、何とも返事をせずにいた。
次には、猛り狂う虎に、真白い大蛇とが眼前に踊り出て、息もつかせぬままに飛びかかった。
男は、流石に命を落としたと思うたが、勿論声など出そうはずもない。
次には何が起こるのかと、眉をも動かさずに居座っている始末だ。
次には黒き
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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時