蜘蛛の糸、十四本目 ページ14
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「あらぎぬ?」
―――荒絹、あぁ、それは。
女神の呪いで身を蜘蛛に変えた、哀れな少女の名前ではありませんか。
いつだったか、彼に語り聞かせた『荒絹』の名が私のものとして定着したようです。
◆
昔々あるところに、いかなる恋をも紡ぎ、いかなる愛をも引き裂く愛と嫉妬の女神がおりました。
彼女の力を畏れ敬うものの中には、山の麓で育った美しい牧童の少年があります。その少年の信心深さと美貌に女神はうっとり恋に落ちておりました。
しかし、人の子とは常に人の子を愛するものと決まっています。彼女が愛した美しい牧童は、村で一番に美しい娘に恋をしました。
彼女は世界でなによりも美しい帳を編み上げ、牧童へと捧げることで愛を告げんと心に決めておりました。
それを面白く思わない女神の行動は大胆です。
なんと、帳を編み上げるのを続けておれば、身をすっかりと蜘蛛に変えてしまうと呪いをかけ続けたのでございます。
その結果はいうまでもありません。
彼女の織る帳はすっかり泥につけたように醜くなり、彼女自身もまた、蜘蛛に身も心をも変えてしまったということです。
その哀れな美少女の名を荒絹と申すのです。
◆
『ここまでお話申し上げておいて、いやですけれど。誤解を決してなさらぬよう。私は女神の呪いで姿を変えられたのではありません』
ある日の夜中、そのお話を終えてから、龍之介が何事かを言おうとする前に言い切ってしまいました。
『輪廻の続くまま、蛆から蛇、蛇から蜘蛛へと姿を変えただけで、私の前世を語るのに 特別『蜘蛛』という事実に配慮は必要ないのです』
必要なのは、蜘蛛に身を変えるほどのことを、しでかしたということに他なりません。
確かに荒絹は蜘蛛に身を変えましたが、私は娘のように呪われて身を変えたわけではないのです。
私は自ら、【望んで身を変えた】のですから。
そこまで伝える勇気は、私にはありませんでした。
彼が小瓶に入れて育てているのは、
口を利くこの蜘蛛は、
千年もの時を経てもなお、
地獄の業火に焼かるるべき大罪人であるということを、知らなくたってよろしいのです。
◆
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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時