菩提樹下の逍遥《四》【文IスIト】

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「…後悔しているのかい？」

「………いいえ」

「なら、笑うといい。こうしたスキャンダルも笑って流せないようでは、そのうちに淀が溜まって死んでしまう。これから話すことのほうが、よほど堪えるよ」

鴎外は意地悪く、うっそりと微笑んで言った。




「予想とは外れた実際の被害、その３。君はそもそも、―――家族を奪われたことを理由にクーデターを起こしていない」



「足立君。辛いことだろうが、ひとつ思い出してほしいことがある。
君をそそのかしたお爺さんは、もしかして、子供たちが奪われたことしかお話しなかったんじゃないのかね？」





◆





―――この袋、顔につけて。

そう、息を吐くんだよ。吸い込んじゃいけない。袋の中で、呼吸を繰り返すんだ。過呼吸の対処法はもう知ってるだろう。


…落ち着いてきたかな？だからもう少し時間を置いてから話したかったのに。


この話は後に―――…する気は、ないみたいだね。判ったよ。

なら、そのまま話を聞きなさい。


安吾君に腹部を三発撃たれることになった、第一回目の襲撃。

あの時に私は、君が家族を奪われた件で武器を手に取ったものだとばかり思っていたんだ。だが実際には、子供たちの命を狙う我々を止めに向かってきただけだった。
これは不自然なことだよ。

何故って、君、本気で言っているのかね。
家族を奪った仇が目の前にいる状況なのに、どうして私を撃たなかったんだい？

あの位置から心臓や頭を狙うなんてわけもない筈なのに、まるで見向きもしなかっただろう。

私なら、あの場で迷い無く仇を撃ち殺していた。
家族を奪っただけではなく、今度は子供たちまで奪うのか。許さない、許さない――バン！とね。

今このタイミングもそうだ。一対一。かたや怪我人とはいえ、憎悪さえあれば紙を暴力装置にかえることができる能力者だよ。

どうして『カルテ』を見せられた時点で、大人しく私の話を聞く気になっていた。
紙が差し出されたというのに。

この絶好のチャンスを見逃すなんて、冷静―――と云うには、あまりにも人間味がなさすぎる。

Q２「怒りの着火点」→←．

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