夜明け前《参》 ページ23
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強いものが正義となる場所。
罪状を以てよしとするならず者の集団、ポートマフィア。
この場所で生きていくものになれば、足立一之の悪行は才となり、偉業に変わる。
『その簪はお前にやろう。なかなかに似合う』
答えを聞く前に、紅葉は自身の簪から一本を抜き、少しだけ伸びた少年の髪を結い上げた。
ポートマフィアにある掟の一つ―――自身の部下として見定めたものには、身に付ける衣服の一部を譲ること。
この儀式が執り行われようといているのを見て、ようやく部下は騒ぎをしずめる。
『お前が二度と。災禍にあわぬよう。
私が最期の厄災となるように、お前様を護ろう』
足立は知るべくもない。尾崎紅葉は母の仇などではなく、自身の罪を被った女性だということを。
それでもなお、不思議と彼女の目に宿っている、たしかな庇護の意志にひかれるように、足立は簪に手を伸ばした。
結われた髪に触れると、静かな鈴音が響いた。
◆
頭を抱えてグスグスとうずくまる足立の耳に、ふと鈴の音が聴こえた。
紅葉が贈った簪は、静かに木陰の風に揺られている。
“それはお前の才能じゃ。若君”
言葉に従うように目を落としたノートには、悪辣の限りを尽くした証が記されている。
忌むべき罪を生んだ力を、才能と呼ぶ者がある。そのギャップに足立は眉をひそめた。
「なあ、芥川。俺には自分が立件されないだけの死刑囚に思えるんだけど、お前にとっては違うのかい」
「なにも違わないな」
あっさりと芥川は答え、呑気に言った。
「ここにいる人間が皆立件されれば、死刑の順番待ち行列でパンクする」
ここで一度きり、続ける。
「だが地獄へおもむけば、軍人も僕らも何も変わらぬ。大義があろうとなかろうと、人殺しに貴賎はない。違うか」
なにを今更という調子で言われれば、足立は苦笑いするしかない。この男の残酷なところに、足立は強く優しさを感じている。
あえて軍人と言わずとも軍警で良いのに、とは言わなかった。
軍警の道を外れてから3年程度しか経っていないことを、思いのほか芥川が心配しているらしいとわかったからだ。
「お前さんの言う通りだとも。軍警の正義は『もたらされるもの』よりも、『犠牲にするもの』が大きい。
仮に99人を助けるために犠牲にするのが1人だったとしても、その一人を偲ぶ者が必ず出てくるかぎり、――」
「99人を救うための正義を憎む者が必ず現れる」
もはや芥川を相手に、足立が隠さなくてはいけないことはなにもない。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 飛沫さん» ご読了ありがとうございます!!!書いて良かったです!!!!いつも応援のメッセージやイラストをありがとうございました(;_;)完結までの糧になりました!これからも創作活動をやっていこうと思える応援の数々をありがとうございました!!! (2020年6月27日 10時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 完結おめでとうございます! テストのせいで読むの遅れてしまいました。足立くんの切実な心を見れて嬉しかったですし、凄く感動しました!おつかれでした!! (2020年6月27日 7時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - よしな。さん» 最後まで読んでくださってありがとうございました!!!!闇堕ちする過程のお話なのでふざけることなくここまできてしまいましたが、シリアスでも最後までお付き合いくださったのがマジでありがたいです!書いてよかった!!!ありがとうございました!!! (2020年6月23日 23時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 好きです……!闇堕ちして暗殺業で生きていく決意をした足立くんを見たときは泣きそうになりましたが、茨の道を進んでも彼はなんとか生きてほしい。やっぱりこのシリーズ凄く好きです。 (2020年6月22日 22時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 操咲作乃さん» こんにちは!元気です!!!コメントありがとうございます!!コントもシリアスも頑張って書いていきますので、おつきあいください笑笑笑笑 (2020年5月12日 15時) (レス) id: b5b4ae2a61 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2020年5月10日 17時