残穢《上》 ページ33
◆
芥川の頬に生暖かい風が当たった。
たったそれだけで幻は去ったが、魂が器に戻らない。
あの残虐劇をどのように受け止めるべきか、彼には何もわからなかった。
生きるため、これまで幾らでも命を奪ってきたが、
奪った命の中に、家族が混ざったことは一度も無かったからだ。
精神操作の異能者は、自身の死因を作る因果となったものへ、永遠に残る呪術をかけることができる。自分そのものを呪いに変え、意思を持って殺害した本人の脳髄に残り続ける。
しかし母親が息子へ残していった呪いは、『折り紙』ではない。
『お前はこれ以上、生きてちゃ、いけないの!』
『あなたと関わった人間に待っているのは、破滅の未来だけじゃない!』
『誰もお前を助けてやれない!お前を助ける者はもういない』
最期に残した言葉。
足立少年にとっての呪詛は、母親の遺言だ。
原稿用紙の一枚にも満たない言葉が、足立少年の人生に決して消えない傷を付けた。
「かあさんの、いうとおりだった」
声にはじかれるように顔を上げた。
雪が地面に付くような無音で、足立は芥川の前に立っていた。
足立の真後ろに立つ、【鳥顔の和服の女】が、たえず少年に耳打ちをする。
立ち去る前に老翁が残した、最悪のおきみやげだ。
それが精神操作の影響をおよぼす悪霊だと、芥川は直感した。
「―・――― ――― ・−・・ ・・・」
「−・−・ −・―― ・・ ・−・――」
さえずりに導かれるように、足立は針のない注射器を後ろ手に放り投げた。
芥川は液体をたらたら零す注射器と、一瞬の違和感があった鎖骨をゆっくり一瞥する。
ほんの一瞬違和感のあった鎖骨からは、一滴二滴の血液が流れている。
空の注射器を認識した後、思考力が奪われていった。
【得体の知れぬ薬】が身体に回り、芥川の視界が大きく歪んでいく。意識は妙にはっきりしているのに、体が上手く言うことをきかない。
「俺と関わった人間に待ってるのは、破滅の未来だけだ」
鯉口に、少年の白指が這う。
彼の愛刀である脇差しが、どちらのものとも判らぬ血を吸い、赤黒く輝く。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時