死の味がする生の幸福《八》 ページ19
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ほんの少し動じたようだが、「Qの地下牢を破壊された今、これ以上いつ爆発するかも判らぬ爆弾を抱えてはおけぬじゃろう」と穏やかに伝えれば、安心したようにうなずいた。
「今のマフィアに置くよりは、安心ですね。……いつ殺せと言われてもおかしくねぇんだ」
―――それならこの先何度でも、俺を殺しておけば良かったと後悔してくれ。その愛情が全てひっくり返ってくれたら、俺たちは初めて分かり合えるよ。
これまでの行動に、倫理的抵抗は生まれなかった。策も順調に進んでいると言っても良い。だがしかし、一つ誤算が生まれてしまった。
芥川龍之介。彼のことを、俺はよく理解していなかったようだ。
これまで、生き残った俺を罵倒する声や、殺すべきだと騒ぐ声が何遍も組織を飛び交ったにも関わらず。
―――芥川だけは、そんな罵倒とは正反対の方を向いていた。彼奴一人だけは、どんなに否定されようとも、俺の味方であろうとした。
まさか、見舞いに来るなんて。
更に俺を撃った犯人さがしのために、ミミックの敗残兵を誅伐して回っていると聞いた時は耳を疑った。
エージェントから俺を取り返すために、死ぬ気で奮闘し、記憶を消されてももう一度立ち上がる。
情報を集めるたびに「暴走」として入ってくる記録の全てが、俺を救けるために動く芥川のことを伝えている。
最後に、マフィアと軍警の戦争を引き起こすトリガーとなる場所にまで、奴は現れた。
「千代助が誘拐され、この軍用施設にいることは把握している。その手引きをしたのは尾崎幹部、貴女だったはず。
そして。足立一之が目の前で拐かされていくのを黙って見ていろと、中也さんに指示を出したのも貴女だ」
お前、そんなに熱い奴だっけ。
などと茶化してやりたい。奴の人となりが、実際に人が思うほど冷酷ではないことに気付かされる。
――こいつ、仲間思いだったのか。
彼の精神のはたらきの鋭さは、多くの場合に、彼の内にひそむ優しい心遣いと、はげしい情熱とを、他人の眼から隠しさってしまう。
本当の芥川龍之介に宿る人間的な情は、どこまでも優しい。
俺はこいつの目が好きだ。
ぶっきらぼうで正直な、透き通った目。
いつ見ても彼の眼は鋭く澄み切っていたが、彼の感情は常にあたたかく揺らいでいた。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時