死の味がする生の幸福《弐》 ページ13
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『これでみんな、お片付けできるよね』
再び目を開けると、目の前から幼い俺はいなくなっていた。
床には宛先を失った輸血パックから流れた血漿が散乱している。色素を失って半透明な液体のように見えるが、俺にはそれが血だとわかる。
誰の目にも見えない、しかし確かに存在する完全犯罪。
これから俺が実行するのは、そんな途方もない奇跡を連続で起こさなくてはならない計画的復讐だ。
壊れた体があげる悲鳴に耳をかさず、紙を通した重力操作で窓から垂直に壁を伝い、屋上へ向かう。
何もかもがはじまる前に、俺がこれから裏切る人の顔を見ておきたかった。
◆
「足立、追うんじゃねえ!!ガキはもう死んだ!!!」
「…手前が死んでも、ガキは戻ってこない。無駄なことはやめろ。もうわかってんだろ。手前は敗けたんだ」
俺が抜け出した話を聞いて、すぐに飛んでいてくれたんだろう。
中也さんは予定よりも30分以上早く、俺の前に現れた。
この必死な顔を見れば、罪悪感で少しは躊躇いが生まれるだろうかと思ったが。
残念ながら俺の本能は、復讐の火の手を緩めてはくれないらしい。必死の訴えを前に策を張り巡らせる始末だ。
―――俺が重体の患者だという認識を使って、俺ではない誰かに成り済ますのはどうだろう。
「寝たきり状態」だという前提がある足立一之は、最初から犯行に関与してると疑われない。
もちろん最終的に主犯だとわかったとしても、その頃には手遅れになるように動けば良いんだ。
ここまで考えた時、ふと中也さんの言葉が、意味あるフレーズとして耳に飛び込んできた。
「―――だからどうした? 甘ったれてんじゃねえぞ。あれは、首領が立てた作戦の一環だったんだよ!
手前一人の意思で覆せることじゃねえ!!!」
―――首領の意向? 何を当然のように言ってるんだ、貴方。
まるで首領が決めたことなら、何をしたって良いと思ってるみたいじゃないか。
「これ以上莫迦なことは、」
「『やめろ。』―――そう仰りたいのですか」
首領の命令で子供が死ぬなら仕方がない。
まるでそう言いたげな中也さんが信じられなくて、よせばいいのに、俺は余計なことを聞いた。
「あなたは、罪もない人間が。殺されても良い理由があるとお思いですか」
「――――。」
「……森鴎外の命令なら、誰だって殺すのですか? たとえマフィアと何の関係もない、罪のない一家であったとしても。相手が子供でも。命令通りに殺すのですか」
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時