寄る辺なきもの 4 ページ4
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その奇妙な沈黙を不安に感じて、再び周囲の人間の死体を見回す。
「そう、貴方だって、訓練で教わりませんでしたか……? 初等教育から習うはずなのに」
そこで言葉が途切れた。ふと、足立は目の前に、子供の手足が投げ出されているのを見つけた。
「………あ、」
視線の先では 子供を庇うように、親が覆いかぶさったまま首を貫かれて死んでいる。いや、自分が殺したのだ。
親が、子をかばって、死んだ。
その光景を作り出したのは、他ならない、自分だ。
殺したのだ。だから、死んだ。その事実関係を認識するのに、足立の脳は時間がかかった。
正常に脳が機能しない。手に持っている刀を振るったのが自分だと、理解できない。
「足立」
死んでしまった。生きていた。生きていた人間を、その手で、殺めてしまった。
「手前、―――何もおもえねえのか、」
中也の言葉を合図に見上げた世界には、足立がかつて見た地獄がひろがっていた。
死んでいるのは、名前も顔も知らない他人だ。けれどもたしかに、誰かの宝物だったなにか。自分が来るまで、生きていたはずの、誰か。
彼らの姿が、自分を守るために、殺されてしまった家族と重なった。緒方の家の惨劇と、全てが重なっていた。
「中也さん、」
足立は掠れた声で、中也の名前を呼んだ。
「……俺は、なにをしてしまったんですか、これは、間違いだったのですか、おかしいのですか?」
それは、少年が初めて気がついた、己の歪みだった。
殺人の罪を理解し、怯えていたのではない。人殺しをしても、何も感じることができないことに、足立は大きな歪みを感じていた。
「ひとごろしは、いけないことだなんて、おじいさまはひとことも、」
正しく生きてきたはずの自分が、大きく歪んでいる。そのことに気がついた少年が取った行動は、極々自然のことだった。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時