前哨戦《弐》 ページ25
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『聞こえますか、
通信をジャックする電波が、上層部からの指示を砂嵐に変える。
電波塔を見上げ、
電話などして余裕だね、と言いたげだった。
「
女郎のような着物に、返り血。それとなびく黒髪、見慣れた黒目が、僕をじっと見下ろしていた。
『どういうこと。…私は間違いなく、彼を病室から軍事施設へ移したわ。それがどうしたの』
「……一之君は病室に居なかったんです、」
あの着物は尾崎紅葉のものだ。
僕たちはとんでもないペテンにかかっていた――。
「彼はずっと、尾崎紅葉に扮していたんです…!!!」
息を飲んだ先輩を他所に、僕は急いで高台へ登った。この状況を伝えるには電波妨害が激しすぎる。
端末を操作して、僕は彼に繋がるように祈りながら走り続けた。
【発信中―――、中原中也】
◆
安吾はすでに戦意を失っていた。
急いで逃げ込んだ高台の下では、考えうる限りの最悪な光景が広がっていた。
指揮系統の乱れによる逃亡経路の錯綜。
誤情報の氾濫。
乱発する
敵味方なく撃ち合う混沌。
逃げ惑うしかなくなった士官に追い打ちをかけるように放たれる【黒い折り鶴】の追撃に、あるものは悲鳴をあげ、ある者は抵抗する間もなく命を奪われていく。
【見た】というだけで命を奪う幻術が、戦場を蹂躙する。
全てが一瞬の出来事だった。
軍警からの通達で、避難と人員増強の旨が簡潔に述べられた直後、
それから通信で聴こえていた音が、現実に降りかかってくるのは時間の問題だった。
精神病棟のような基地は一瞬にして赤く染まり、押収していた囚人が逃げ出したという情報が一気に伝わった。
対異能犯罪者組織として最高峰の人員を、いともたやすく玩具にしてみせる情報操作能力。
ミサイルの弾道を組み替え、的確に基地を爆破させるだけの計算能力。
主犯として脳裏に浮かんだのは、その才能の片鱗を見せていた足立一之だった。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時