時計仕掛けのオレンジ《伍》 ページ12
.
「―――そこまで判っていて、手を出さなかったことは賞賛に値するよ。誰が聞いたとしても、君の忠信を疑わない美談だろうね。長の耳に届けば、なんらかの褒美を与えられてもおかしくはない。そうだろう」
鴎外は、笑顔から鋭い長としての眼光に切り替え、悠然と言い放った。
「君の望みは何かね、中也君。この話を私に聞かせたのには、一体何の目的があるのかな?」
「首領。」
中也は膝を着き、胸に手を当てたまま、朗々と答える。
「俺は貴方の部下として、忠実な駒として、心を殺してお仕え申し上げたつもりです。―――褒美を、所望します」
荘厳な時が流れた。
柱時計の音だけが、彼らを執務室と云う空間に押さえ込んでいる。
砂漠の果てを思わせる沈黙を経て、鴎外は静かに頷いた。
「褒美とは、何かな?」
中也は呼応するように目を瞬かせる。その青い瞳をまっすぐに鴎外に向けて云った。
「―――
そこで、中也の言葉は途切れた。
鴎外の真後ろに、巨大な鉄の塊が迫り来る。
窓が震えるほどの重い音が、中也の耳をつらぬいた。
鴎外は大きく目を見開き、後ろを振り返る。———大陸弾道ミサイルだ。
それが鴎外の命を狙うように、上空からまっすぐに飛んできた。
「首領!!」
手を伸ばし、駆け寄る。
身体は羽毛のように浮き、ミサイルに負けない斥力で鴎外へ向かっていく。
鴎外の腕をつかむ。そのままの勢いで、向かってくるほうの反対方向へと飛び出していく。
強化ガラスを割り、二人が建物の外、ヨコハマの上空へと身を乗り出した瞬間、
高熱と光線が踊り、龍神が吠え立てるような音を立てて建物を喰らった。
巨大なミサイルは、執務室を直撃したのだ。
◆
126人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時