＊ ページ5
けれど、ロスティスラーフはそれがよく分からなかった。――ただ理解できていないだけかもしれない。あの戦いで死んだと聞いた人たちにすら、「実はまた会えるんじゃないか」と思ってしまうくらいだから。でもやっぱり分からないのだ。こうして歌っている人が、もう今はこの世にいないなんてことが。少しの静寂の後、次の曲のイントロが始まる。ほら、こうやって、一曲が終わったら次の曲に行くし、最後の曲までいったら、やっぱり少しの間の後また最初の曲に戻る。そんな感じであの人も、そうなんじゃないかって。ううん、日芽姉だけじゃない。みんなそう。
カランコロン、と軽やかなベルの音が舞い込む。お客さんだ、とロスティスラーフは曲を止めた。それと同時に、客が声を出す。
「日芽の曲。お好きなんですか？」
「うん……はい！ すみません、お客さんがいなかったから」
いえ、と後ろ手で扉を閉めながら客は返す。
「あの、『絶対に届かない手紙を届ける』って聞いたんですけど」
客の手には、数日前にロスティスラーフが街頭で配っていたチラシが握られていた。
「行方不明の人が相手でも、届けてくれますか。こっちが一方的にしか知らなくても。……『スター』でも」
＊
曲、流しててもらえませんか？ そちらのほうがよく話せる気がするんです。私、彼女の歌を聞いて、ようやく世界が明るく見えたんです。統一テストに落ちて、なんか文字だけもらえたけど、私が欲しかったのはそんなものじゃなくて。でも、あの声が耳に入った瞬間、ぱちぱちって、世界が輝いて。あの人に教えてもらったんです。光とか。希望とか。愛とか。
客は文字を書けるものの、「様式が間違っていたら恥ずかしいから」「せっかくならいい紙に書きたい」と、丸机で、この郵便局で販売しているレターセットに書いた。メモとして持ってきていたノートの切れ端にはびっしり文字が書いてあったし、修正液を取る時間も惜しかったのか、誤字だったのだろうと思われる黒丸がいくつかあった。しかしそのノートは、手紙が書き上がるまで一度も顧みられなかった。
その手紙は、裏にある木箱の中に納められた。この郵便局は、同じ宛名のものは同じ箱に入れて保管する。間もなく箱の半分が、埋まろうとしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
