しろくまのゆうびんやさん【叡智Ⅱ】 (ページ40)

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「幸いなことに、ルスワールの来歴はかなりのことが明らかになっている。生年と没年、どの年代にどんな活動をしていたのかもね。この2300年という年は、ちょうど彼女が図書館協会に所属した年だ。この1年後、U-Gesheztに所属する」
　史が視線を上げた所で、朝陽が口を開いた。

「こちらも大切な人に向けた言葉のように見えますね。……あれ？そもそも手紙って大切な人にしか書きませんかね？」
　朝陽の疑問に、ロスティスラーフはこれまでの仕事を思い出した。……確かにそうかもしれない。

「いや、それを考えれば交友関係から絞ることも可能だろう。しかし彼女は交友関係が広いからな」
　うーん、と考え込むそぶりを史は見せる。

「『私が誇れるあなた』、という口ぶりからは誰かを元気づけるような感じがしますね。部下に向けて……いえ、彼女は入隊したばかりでしたね」
「そうだね。となると、親しい人物か同年代の人物か、同期か……。ああ、親しい人物といえば。彼女の夫となる人物もこの時期に既に図書館協会にいたはずだ」
「夫……ってことは、ラブレター？」
　思わずロスティスラーフは一歩引いた。何だか見てはいけない気分になったのだ。
「あくまで一つの可能性だよ。……しかしまあ、うん、そうも解釈できなくはないな。少しイメージと違うが……」
「イメージ？」
　問うたロスティスラーフに、史は考え込んだ格好のまま返す。

「彼女が夫に宛てた、いわゆるラブレターは幾つか既に発見されているよ。それはもっと熱烈な書きぶりだったからね。他の館に収容されているからすぐには出せないんだけれど。今度読むかい？」
「いいです」
　二人はそろって返した。有名人ともなると、残っていれば個人的な手紙――それも、ラブレターまで読まれてしまうらしい。
「……文字、怖いですね」
「それが面白いんだろう」
　こわごわといった朝陽に、ころころと笑いながら史は返した。

＊

　今日はここまでにしよう。そう言いながら史は木箱を元の場所にしまった。そして、「せっかくなら見送るよ」と三人でエントランスへ向かって歩く。