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＊ ページ38
“ア”。さすがのロスティスラーフも覚えがあった。かつて敵だった昇華隊が「門の外の本を燃やす」ことが目的だったのに対し、大昔の敵は「全ての本を燃やす」ことが目的だった、とか。とりあえず、一文字で覚えやすかったのだった。
「しかし、統一語が普及してしまえばそんな論争の必要もなくなります。旧言語で書かれた物語は、旧言語でしか当時は存在しません。……ならば、統一語が普及すれば、それらの本はおのずと読まれなくなる。そして、読まれなくなれば、消える」
朝陽は拳を握りながら言った。そこに史が矢のように言葉を飛ばす。
「で、登場したのがルスワール全集だね。さ、先生続きをどうぞ」
一瞬怪訝そうな目を向けつつ、朝陽はロスティスラーフへ向き直った。
「はい。ルスワール全集は、一口で言えば、統一語で編まれた初の世界文学全集です。この本がなくとも似たようなものは遅かれ早かれ出たでしょうが、この本が出なければ消えたであろう作品も多くあります。……当時の統一語への翻訳は困難を極めたそうです。統一言語は、人工言語ですから。何かを表現するための資源に非常に乏しいんです。流通して間もなくの赤ちゃん言語ですから、なおさら。だからこそ、彼女の仕事には意味があったのですが。――この翻訳は、基本的な文法や語彙は統一語を活かしつつ、絶妙に旧言語を取り込んでいきました。このおかげで、統一語は豊富な語彙と表現力を得た、と評する学者もいますね」
「つまり、統一語で小説を書けるのはこの人のおかげ、ってことか？」
「はい、概ねその理解で問題ないかと」
ですよね、と朝陽は史へ視線を向けた。
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