あなたのことばかり考える ページ3
といっても、客はめったに来ない。来るときはあっという間に椅子が埋まってしまうくらい来るし、来ないときは本当に来ない。昼間、ロスティスラーフはもう一度ポストを開けた。そこには三通手紙が入っていた。が、どれも表面に住所と名前が慎重に書かれていた。こういうのは、近隣にある政府運営の大きな郵便局へ持って行く。すると、その記された宛名に忠実に手紙が届けられる。それだけで十分意味のある仕事だ。けれど「しろくまのゆうびんやさん」が担当するのは、そういうたぐいの手紙ではない。
「曲かけていい？」
「いいよ。CD、この前入れ替えたからそれだけ気を付けて」
ロスティスラーフの問いに、同僚はのんきに答えた。プレーヤーの蓋が開く。入っていたのはクラシックのCDだった。客がいるときには、歌詞のある歌は流さない。旋律に乗った詞は、たやすく囁きを押し流してしまうから。そう言っていたのは、非常勤局員としてたまにふらっとやって来る人の言葉だ。そうなのか、と訝しみつつ同僚は生真面目に従っているらしい。そうなんだ、とロスティスラーフも大人しく従っている。彼は常に、仕事仲間を皆尊敬しているし、信頼している。
はまっていたCDを外すと同時に、かち、と子気味のいい音がなる。塗装のない面に触れないよう慎重に取り外した後、新しいものを同じ場所にはめる。蓋を閉じると、ブゥ……ン、と振動しながら回る音がする。やがて流れ始めたのは、心臓の拍動を早めるドラム、その心音ごと押し流そうとするギター、流れの向きを決定するベース、そして、そのうねりに意味づけを行うボーカル。言葉。限りなく楽器に近い女の声。
「ローシャは好きだな、その人の曲」
「うん！ 連合にいたときから好きなんだよ。しかも、歌だけじゃなくって、他にもいろいろすごくて――おれも教わったんだ、いろいろ」
「そうか。じゃあ、ぜひ会ってお礼を言いたかったな」
同僚のその言葉に、うん、と返したロスティスラーフの相槌は小さかった。同僚も、返答を間違えた、と頬杖をつき、気まずそうに視線を窓の方へやった。
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