PARACAGE 9th【ars】 (ページ31)

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311.キッチン談義。ページ31

「だから、後悔するって...絶対に後悔するって...」

思い返すと、潤くんはそう言って私を会場まで連れて行ってくれた。

「雅紀、まだあの時は辞めようと思ってるって程度だったけど」
「.....」
「もし本当にアイツがモデル辞めたら、ショーに行ってなかった事お前絶対に後悔するじゃん。メソメソするじゃん。ウジウジするじゃん」

潤くんはパスタを茹でながら「そーなると鬱陶しいじゃん」って笑う。

「潤くん...ありが...」
「お礼を言われる事じゃない」
「...ごめ...」
「謝られる事でも無い」

彼はパスタを1本口に咥えて茹で加減を確かめた。
頷いて火を止めると、シンクに置いてるザルにザーッと入れる。
キッチンに湯気が広がる。

「誰の為でも無い。俺が鬱陶しいの嫌だったからってだけ」
「.....」
「だから感謝も謝罪もいらないし、されたくない」

言葉はキツいけど、彼の口角は緩く上がっていた。

「雅紀がモデル辞める理由って、お前も聞いた？」
「あ...うん」
「俺が聞いた理由と同じかな」
「...え？」
「え？」
「えっ、何？」
「え？知らない」

意地悪な顔で、ソースを温めてるフライパンにパスタを入れてかき混ぜてる。

「潤くん、ちょっと何？」
「お前は何て聞いてる？」
「咲でいる必要が無くなったから...って。自分のやりたかった仕事がプレスだって思い出したから...とも言ってたけど...」
「へぇ、そーゆー理由もあったんだ。それも本音だろうな」

ふーん、って潤くんは笑う。

「それも...って、他にも何かあるの？」
「さぁ」
「潤くーん...」

気になる...けど、これ以上訊いても絶対に教えてくれない気がする...。
雅紀くん、潤くんには何を言ったんだろう...。

「Aさぁ」
「はい...」
「俺の前で、そーゆー顔すんのやめて？」
「そーゆー...」
「好きな人の事だけ考えてます、って顔」

え！？
そんな顔を！？どんな顔！？

「そんな顔されたら、加虐心が擽られんだけど」
「カギャク...？」
「ここでお前にどぎついキスして、この呑気な空気を修羅場に変えてやりたい位」
「えっ！？」

思わずズザーッと後ずさったら、「嘘に決まってんだろ」って笑われた。

「そんな面倒臭い事しないわ」
「...ですよねー...」
「ただAの無邪気さは時々残酷だって事、教えといてあげる」
「.....」
「だけど、それが良い所でもあるんじゃない？ムカつくけど」

微笑んだ潤くんが、出来上がったパスタをお皿に盛った。