PARACAGE 8th【ars】 (ページ10)

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255.自衛。ページ10

「あの...だから、もしかすると雅紀くんは私に恋愛感情は無いのかもしれないって思ってたんです」
「と、言うのは？」
「例えばニゴとか、それこそテラハウスの皆と同じ『好き』なのかなって...」

話しながら、自分でも何を言ってるんだ？って気分になって来る。
だって、雅紀くんはあんなに優しくて私を女の子扱いしてれるのに。

だけど、やっぱり怖いんだ。
雅紀くんの中から、あの人が居なくなってるのかどうかは分からない。
再会してしまったら、雅紀くんの気持ちがどう変わるのかなんて想像だってしたくない。

「もしかするとAさんは想いを伝えない事で、自衛してるのかもしれないですね」

自衛...私は、自分を守ってる？

「雅紀の気持ちが分からない。その上で自分の想いを伝えてもし、雅紀の想いが違ったとしたら」
「......」
「Aさんは傷付くでしょう？ショックで傍に居られないかもしれない。でも、言わないでいれば何となく良い感じの関係を続けられる」
「...何となく、良い感じ...」

その通りかもしれない。
せっかく近付けたこの距離を、もう離したくないのかもしれない。

「そのままで居たい気持ちは、とても分かります」
「...翔さんにもそんな経験が？」
「フフッ、そうですね。『何となく良い感じ』は、とても居心地が良い」

翔さんが、口の端をクっと持ち上げる。
幅広の二重が、ゆっくりと瞬きをする。

思わず、見惚れてしまう。

「だけど、あえて僕は伝えるのも良いんじゃないかな？と思います」
「......」
「もしかすると、雅紀もAさんの気持ちが分からないと不安になってるかもしれない」
「雅紀くんが...？」
「僕は、あの日アイツが話してくれた気持ちには嘘が無いと思っています」
「......」
「Aさんと居たら自分は変われる気がするって」

本堂の方から「風翔さーん」と翔さんを呼ぶ声が聴こえた。
翔さんが「はーい、すぐ出ますー」と応える。

「ごめんなさい、ちょっと僕行きますね」
「あ、はい！」
「お饅頭、食べて下さいね。それ、美味しいんですよ」
「ありがとうございます」

翔さんは「ごゆっくり」と頭を下げ、本堂の方へ歩いて行った。
磨かれた木張りの廊下を歩く、真っ白な足袋を履いた足を見送る。

お饅頭を一口、齧る。

「あ...おいし」

餡子かと思ったら、お芋の餡だった。
甘くなった口を、お茶で流す。
そしてまた、お饅頭。

小さく吐いてしまった溜息を、慌ててスゥっと吸いこむ。