PARACAGE 8th【ars】 (ページ26)

今日:54 hit、昨日:8 hit、合計:1,125,207 hit

271.ごっこ。←12.5 ページ26

それからの毎日。
私は文字通り、甘やかされたと思う。

ニノくんは、焼き鳥を仕事帰りに買って帰って来てくれた。
智くんは、美味しいサンドウィッチを買って来てくれた。

翔さんは、桜香寺で食べさせてくれたお饅頭をたくさん持って帰って来てくれたんだけど、賞味期限がその日だけだったからテラハウスのみんなで食べた。

何か、餌付けされてる気分。
私を元気付けるには、食べ物だと思われてるらしい。
間違ってはいない、ありがたい。

そんな中、週末の仕事を終えて家に帰ると庭に出された簡易テーブルに卓上コンロ。
その上に、いっぱいおでんの入った大きなお鍋が乗っていた。

「うわ！なになに！おでん！」

鞄をソファに放り投げて庭に出る。
縁側にはニノくんと翔さんが並んで座って、「先に始めてるよー」って缶ビールを持ち上げた。

テーブルの端っこに『お潤のおでん』って文字と二頭身にデフォルメされた潤くんの似顔絵を描いた立て札。
この絵と文字は、智くんだ。可愛い。

「あ、Aちゃんおかえりー」

部屋の奥から庭に出て来た智くんが、二本持っていた缶ビールの一本をくれた。
寒空の下、冷えた缶で少し手が痛い。

「ただいま、智くん！これ、何？」
「潤くん発案の、おでん屋さんごっこ」
「おでん屋さんごっこ？」

ごっこ...ってゆーか、きっとテラハウス恒例のパーティーなんだろう。
おでんパーティー。

「A、おかえり」
「ただいま、潤く...」

振り返ると、潤くんは頭にねじり鉢巻をして作務衣を着てる。
顔がオシャレ過ぎるけど、完全にこれはおでん屋さん大将のコスプレだ。
これは、まさにおでん屋さんごっこだ。

「衣装は翔さん提供」

翔さんを見たら「俺のお古」って親指と人差し指を立てた手を顎に添えてる。

「さて、お客さん。何にしますー？」

そんな台詞を言いながら潤くんが庭に下りて、テーブルの向こう側に立った。
私も缶ビールを持ったまま、そこに用意されてる椅子に座る。

「大将のオススメは何ですか！」
「ハハッ、お前は順応力高いなぁ」

潤くんがお鍋の中にお箸を入れて、具材をお皿に乗せていく。
そして、そのお皿を私の前に置いた。
大根、はんぺん、それと巾着。

「お客さん、巾着好きでしょ」
「フフッ、鋭いですねー」
「俺が頼んだのを真似して巾着を頼んだ奴に似てるんですよねー、お客さん」
「あら！」

お鍋からの湯気に眉を顰めた潤くんが、笑う。