PARACAGE 8th【ars】 (ページ18)

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263.ブランコ。←11.27 ページ18

夕飯にはまだ早くて、時間潰しに...と翔さんは前にも連れてってくれた丘の上の公園にバイクを停めた。

「前回は駄目でしたが、今回は見れそうですね」
「あ、夕焼けですか？」
「はい！とても綺麗なんですよ、本当に」

翔さんが伸びをしながら笑う。
空は少しずつ、橙色に染まり行く。

並んでブランコに座って、ゆらゆらと揺れながら落ちる夕日を眺める。
橙色の夕日が、私たちの住んでる町をあったかい色で包んだ。

「...綺麗ですね」
「でしょ？」
「蜜柑みたい」
「アハッ、確かに」

美味しそうな完熟蜜柑みたいな色。

「町に蜜柑ジュース、零れたみたいですね」

私が言うと、翔さんは「なるほど」と朗らかに笑った。

「翔さん...」
「ん？」
「ロンドンとの時差は、どれくらいでしたっけ」
「マイナス9時間、だったかな」
「9時間...」
「こちらが朝でも、あちらはまだ前日の夜って事ですね」

何だか、漠然と遠いなと思ってた距離がリアルに感じる。

「全然、同じ空の下じゃないですね...」

雅紀くんがアキラさんに言ってしまったという言葉。
『同じ空の下』
それは、綺麗事だと彼は言った。

「だって、ここはこんなに晴れて綺麗な夕焼けだけどロンドンはきっと曇り空です！」
「アハッ！確かにロンドンは曇天が多いと言いますけどね」
「...時間によっては日付まで変わっちゃうなんて...違う日を過ごしてるなんて、何か...」
「寂しくなっちゃったんですね」
「.....」

橙色の町が滲む。
鼻の奥がツンと痛くなる。

ヤバイヤバイ。泣きそうだ。
違う事を考えよう。
円周率思い出してみようか...えっと...3.1415…

「Aさん？」
「...ダメです...たった5桁しか覚えてませんでした...」
「えっ！？何の話...」
「あっ！いえ！何でもないです！」

あー何言ってんの、私。
でも涙は引っ込んだ。成功。

「さ、そろそろ夕飯食べに行きましょうか」
「はい！」

翔さんがブランコから立ち上がり私の前に立つ。

「焼肉なんて、どうですか？」

そう言いながら、手を差し伸べてくれる。
まるで王子様。
焼肉に誘う王子様。

「約束通り、お詫びにご馳走しますから」
「本当にそんな...翔さんは何も悪くないんですし」
「雅紀に会わせてあげられなかったのは、僕の責任です」
「.....」
「余計に寂しくさせちゃったのも、僕の責任です」

困ったように微笑んだ翔さんが、私の手を取り立ち上がらせてくれた。