PARACAGE 8th【ars】 (ページ17)

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262.スピーカー。ページ17

スピーカーにされたスマホから「どしたの、翔ちゃん」って雅紀くんの声がした。
それだけで、ドキドキが止まらない。

「雅紀、今どこに居る？」
「えっ？空港だよ？あれ、言ってなかったっけ？」
「空港なのは分かってんだけど、空港のどこ？」
「搭乗口の前ー」

「マジかよ...」って翔さんが、吐き捨てるように呟いた。

「お前、そっち入るの早すぎない？まだ搭乗まで時間あんだろ」
「あー！そうそう、言うの忘れてた！翔ちゃんに言った後に乗る便が変わったの！」
「おまっ...！何で言わねぇんだよ...」

翔さんが頭をガシガシしてると、スマホからは「何で何で？マズかった！？ごめんね！今度からはちゃんと言うから！」って雅紀くんが謝る声。

「あっ、翔ちゃん！俺もう行かなきゃ...時間ヤバい」
「え、マジ」
「何か用あった？」
「いや...」

翔さんが私を見て、スマホを持った手をこっちに伸ばし「代わる？」と口パク。
私は首を振って、それを断った。

彼は口をギュッと結び小さく頷いて「初めての海外仕事、頑張れーって言っとこうと思って」と雅紀くんに向かって話す。

「えーっ！ありがとー！翔ちゃん、好きっ！」
「おっ...いや、僕に言わなくて良いから...」

何故か翔さんは物凄く気まずそうな顔をして「じゃ、切るわ...行ってら」と通話を切ってしまった。

「...何か、ごめんなさい」

そして、今度は物凄く申し訳なさそうな顔。
それがちょっと可愛くて、笑ってしまう。

「偉そうに言ってこんな所まで連れて来たのに、まさかこの結末は無いわ...」
「いえいえ、私も心の準備出来てなかった気がするから大丈夫です」
「そんな...結局Aさんに気を遣わせちゃってるし...」
「いえ、そんな事は！」

あぁ...と翔さんは両手で顔を隠して俯いてしまった。
何というか...きっと、翔さんがモテるのはこーゆー部分にもあるんだろうな...なんてぼんやりと思う。
完璧過ぎないというか、抜け感？違うか。

「電話、本当に代わらなくて良かったんですか？」

顔を上げた翔さんに訊かれる。

「はい。...電話で言う事じゃないと思うし...言えなかったと思います」
「...そっか。あーもうアイツ何でちゃんと報告しないんだよ...」
「翔さん本当に気にしないでください」
「せめてお詫びに夕食を奢らせてください」

翔さんがお詫びをする必要なんて全然無いのに。
緊張の糸が切れた私は、「じゃあお願いします」と笑って頭を下げた。