PARACAGE 6th【ars】 (ページ6)

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181.切り傷。ページ6

例えば、切り傷が出来たとして。

最初こそ痛いなぁ...って思うけど、慣れて来ると痛みにも鈍感になる。
その内、その痛みも当然のようになる。

でも一回塞がったと思ってた傷が開いた時の痛みは、きっと最初に感じた痛み以上だ。

雅紀くんが、また帰って来なかったり酔っ払って深夜に帰って来るようになったのを見るのはこれまでよりずっとキツい。
もしかしたら、少しは雅紀くんに近付けてるのかもしれないなんて思ってたから余計に。
恋愛対象じゃ無いのは分かってるけど、友達として彼が過去を忘れられる手助けができるかもしれないなんて思ってたのに。

思い上がってたな...。

それを実感して、更にしんどくなる。

・

遅番の日、一階に下りるとだいたいいつも皆もう仕事に行ってて誰も居ない事が多い。
時々フレックス出勤するニノくんが居るくらい。

だから今日も誰も居ないだろうとダイニングに行くと、智くんが座ってコーヒーを飲んでた。

「あれ？」
「おはよう、Aちゃん」
「智くん、おでかけ？」

そう思ったのは、Tシャツではなくシャツを着てるから。
髪もいつもは何もせずに下ろしてるけど、今朝はちゃんとセットしてある。

「うん、出版社の人と打ち合わせがあってねぇ」
「そうなんだ」

智くんは「眠たい...」と言いながら、またコーヒーを啜った。

私もコーヒーを淹れて、智くんと向かい合わせに座る。
テーブルの上に大きな袋に入ったバターロールが置いてあったから、一個取り出して食べた。

パンを食べながらコーヒー。
マグは、雅紀くんと交換したのをずっと使ってる。
雅紀くんも、あのマグを今でも使ってくれてる。

だけど、いくらそんな事をしてても
同じ家に暮らして、同じ香りを纏っていても...

「Aちゃん」
「ん？」
「最近、あんまり笑ってないね」
「...え...うそ...」

思わず頬に手を当てる。

「自覚してなかった？」
「...うん」
「心当たりはあるって事だね」
「あ...」

智くんが、ふふって笑う。

「おれ、いつでも絆創膏になるから言ってね」
「...ありがと」
「あ、夜中に甘えるのはダメだよ？」
「え？」
「夜中はオオカミが出て来るから」

がお、って言った智くんの口の中に牙のような犬歯。

「だけど前みたいにAちゃんが逃げたくなった時は、部屋なら貸してあげる」
「......」
「でも、もう連れ込んだりはしないか」

主語の無い言葉でも、何の事か分かって。
私は何も言わずに笑った。