【外の空気を吸いにいく 4】 ページ43
どれくらい時間が立っただろうか。少しずつ気持ちが落ち着き、涙も治まってきた。藤田さんは泣いている間中、隣に寄り添い、涙を拭ってくれていた。
初めて会った時は怖い印象を受けたが、今では近くにいるだけで安心する存在になったように思う。ナイルさんの情報探し然り、人買い事件然り、お世話になっているというか迷惑をかけすぎていると思う。出会ったのも話した時間も短くて少ないはずなのに、無愛想の中に見える優しさに心が惹かれる。
『藤田さん』
「……なんだ」
『聞いてほしい話があるんです』
「……悩みか?」
そう言って藤田さんは首を傾ける。
その言葉に私は首を横に振った。
『いえ。私が体験した不思議な出来事と、これからについてです。……聞いていただけますか?』
私がしてきた不思議な経験。信じられないような出来事。一頻り泣いたからか、気持ちはスッキリしている。どこから伝えるべきなのかどう伝えればいいのかはわからないけれど。
明治時代で過ごすことになったのだから、私にはたくさんの時間がある。大丈夫。
藤田さんは誠実な方だから、おかしいと思えば伝えてくれるし、思うところがあれば話してくれるはず。大丈夫。膝の上で拳を握りながら、自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。その最中、藤田さんと目が合う。すると藤田さんは私の右手の上に左手を乗せた。藤田さんの大きな手から体温が伝わる。
「…………大丈夫だ」
見上げると藤田さんは優しく微笑んでいた。初めて見たその表情に驚いたものの、私は気持ちを切り替えるために大きく息を吸う。
『私は未来から明治に来ました。私が生まれた年号は…』
夜更にとある縁側で一匹の黒猫が通りかかった。
月明かりに照らされるその縁側には2人の人間が座っている。
寄り添って座る人間をじっと見つめた猫は、暗闇に溶け込むように消えていった。
【藤田五郎ルート・終】
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小崎相良(プロフ) - Koma?さん» お返事遅くなりすみません!ありがとうございます! (2022年1月22日 18時) (レス) id: 6783c5a7bd (このIDを非表示/違反報告)
Koma?(プロフ) - ちょーぜつ面白いですね!最近めいこい見始めて最初に出会った作品がこれで良かったです! (2022年1月16日 11時) (レス) id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 二酸化酸素さん» ありがとうございます!嬉しいです! (2021年7月21日 22時) (レス) id: b1e523f101 (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - 本当にゲームをしてるような気分になりました (2021年7月19日 1時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 鈴華さん» 楽しんでいただけたなら幸いです(o´艸`)!こちらこそ閲覧頂きまして、ありがとうございました! (2020年8月4日 23時) (レス) id: 5536140bcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2020年2月23日 10時