【置屋に帰る 2】 ページ37
人の少ない時間帯なので、隙を見て自室へと向かう。
「Aー?居るのか?」
ふすまに声をかけるが中から返事は帰ってこない。帰っていないのか?という不安が頭の中をよぎる。そっと襖を開け中を確認するが灯りはついておらず、月の光が部屋夜中をぼんやりと照らしていた。誰もいないかと思ったが、そして見覚えのある位置に布団の塊が見える。
それは昨日も見た光景だ。舞踏会で誰かに何かされたのかもしれない。俺は怖がらせないようにゆっくりと近づく。
「……なあ、どうした?」
『……』
「……なんかあったのか?」
『……』
「A、」
名前を呼んだ瞬間だった。
布団からAが飛び出してきて俺の肩にしがみつく。驚いて咄嗟に抱きとめるが支えきれず、身体は後ろへと倒れ込んだ。
「どーしたんだよ?」
『……』
「言ってくれなきゃわかんねーぞー」
『…………ナイルさんに、会いました』
ポツリと小さな声でAが呟いた。
「ナイル?お前の探し人って言ってたやつか?」
俺の言葉にAはコクリと頷く。
『私は彼の暇つぶしの道具だったみたいです。興味が逸れたから、もう現代には帰れないそうで……存在するための居場所ごと、ナイルさんの力でもう無くなってしまってるみたいで……本当に帰るべき場所も、友人たちも失って…………』
表情は見えない。苦しそうな声だけが部屋に響く。
『川上さん、私は……もう』
がんばれません……声を震わせながら、Aはそう呟いた。
“現代” “力” “暇つぶし” “帰れない” 。
Aの言っていることが分からなくて、どんな状況なのか掴めない。俺がAのことを何も知らないんだと改めて実した。
毎日出かけて、人探しをしていた事は知っている。
ただ、踏み込まないようにしていたこともあり、どんな人を探しているのか、どんな事情があるのかを俺は知らない。
今、彼女はこの小さな体に何を抱えているのか。
事情の知らない俺にできることを考えた。
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小崎相良(プロフ) - Koma?さん» お返事遅くなりすみません!ありがとうございます! (2022年1月22日 18時) (レス) id: 6783c5a7bd (このIDを非表示/違反報告)
Koma?(プロフ) - ちょーぜつ面白いですね!最近めいこい見始めて最初に出会った作品がこれで良かったです! (2022年1月16日 11時) (レス) id: 286de14237 (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 二酸化酸素さん» ありがとうございます!嬉しいです! (2021年7月21日 22時) (レス) id: b1e523f101 (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - 本当にゲームをしてるような気分になりました (2021年7月19日 1時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
小崎相良(プロフ) - 鈴華さん» 楽しんでいただけたなら幸いです(o´艸`)!こちらこそ閲覧頂きまして、ありがとうございました! (2020年8月4日 23時) (レス) id: 5536140bcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2020年2月23日 10時