【明治東亰恋伽】もしもがあるなら 参

第拾話＿ホール ページ17

「ごきげんよう！」


突然話しかけてきた女性たちに驚く。
よくよく考えれば横で朗らかに笑っている彼も川上座を率いる有名人なのだから当たり前だ。
隣にいるのが当たり前になっていたがそんな存在ではないことに気づき、同時にやはり私は人に恵まれたな、と改めて思い直す。

ホールの隅で壁に寄りかかりながら、中央でワルツを踊る人たちを眺める。現代では見ることのない、この時代ならではの光景だ。
もちろん、自分も周りもそんな環境にいなかったもあるだろうけど。
優雅なその雰囲気のおかげか、他の人への恐怖心は感じなかった。
ぼんやりホールの光景を眺めながら、穏やかな時間を過ごしていたその時だった。



「おいで」



誰かに腕をグイッと引かれ、ホールの中央へと誘われる。



『？！』



灯に照らされて輝くのは見覚えのある銀髪。
パリッとした黒いスーツ。



『っ……ナイルさん！』




「久しぶりだねぇ！元気にしてたかい？」



現れたのは元凶とも言えるナイルさんだった。彼は悪びれる様子もなくヘラヘラ笑いながら、ワルツを踊っている。踊り方などわからない私は混乱しつつ、ナイルさんのリードを受け必死についていこうとする。



『げ、元気ですよ！どこで何してたんですか！探してたのに……』



「えー？僕は忙し〜の」



『顔くらい見せてくれたっていいじゃないですか！』



「え？見せたじゃない」



『え？』



「ほら、あの赤髪の」



……私じゃなくて鏡花君のことを言っているんだろうか。確かに鏡花君は会ったと言っていたけれど……そんなことを言いたいわけじゃない。



『他の人のところじゃなくて私に！私に、ですよ！毎日毎日探してたんですから！』



「えー……」



ナイルさんはつまらなさそうに唇を尖らせる。こっちは必死で探していたのに、かくれんぼを楽しむかのノリで過ごされていたんだと思うと、なんだか腹が立った。

その言葉を本人にぶつけたところで、ナイルさんは気にもしないんだろうけど。




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