Another:春草 ページ36
“Aがいなくなった”
その言葉が頭の中で反復している。
出会ってからそれほど日は経っていないし、話した回数も多くはない。深いつながりを持っているわけではないのに、胸がグッと締め付けられて痛かった。
魂依である彼女には物の怪たちに連れて行かれた可能性と、それ以外の事件や事故に巻き込まれた可能性の二つがある。
……前者の場合は魂依ではない俺にできることは無いだろう。
「……いつから消息が分からなくなってるんだい?」
鴎外さんが口を開いた。視界の端では芽衣が目に涙を浮かべている。
Aを慕う姿は、姉妹のようで微笑ましかった。多分彼女たちの置かれている境遇が近いのもあるだろうけど。
こんな事態になって自分の中で彼女の存在の大きさに気付く。
それと同時に密かに小さな決心をする。
川上さんは鴎外さんの言葉に少し間を開けてから口を開いた。
「芽衣の話が事実なら夕方くらいからだ。今日川上座のみんなと打ち上げを兼ねて、常盤で宴会をすることになってたんだ。けどAの姿が見当たらなくてよ……芸者にいないのかって尋ねたら、昼頃に出かけたきり帰ってないみてぇで……」
「1刻前か……時間が経ってしまっているね……」
「明治座にはいなかったの」
「舞台終了後、俺が中を確認してる。その時にはいなかった筈だ。故意に俺から隠れてたら分からねえけどよ……今は鏡花ちゃんが確認に行ってるぜ。俺は芽衣が知らないかを確認しにきたんだ」
「残念ながらここにはいないよ。他に心当たりはないのかい?」
「……思いつかねぇんだ」
沈黙が流れる。Aが行きそうなところを考えていて、ふと気がつく。以前一度だけ、Aが芽衣と2人で遅い時間に帰ってきたことがあった。その時に2人が行っていた場所を思い返す。
「……谷公園」
「春草さん?心当たりがあるんですか?」
「前にあんたがあの子と出かけて遅く帰ってきた時、日比谷公園に行って遅くなってただろ」
「はい……」
「あの子がいるとは限らない。けど、可能性はあるならと思って」
「日比谷公園だな!じゃ、夜遅くに悪かったな!」
川上さんがくるりと踵を返して外へと早足で歩き出す。
「待ちたまえ!僕も行こう。Aちゃんが心配だからね……それに、人手は多い方がいいだろう?」
そう言うと鴎外さんはサンルームから羽織を一枚持って出てきた。
「私も行きます!」
横で芽衣がそうはっきりと言い切った。
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小崎相良(プロフ) - 閃光のまりあんぬさん» コメントありがとうございます!不定期な更新ですみません(>_<)藤田さんカッコいいですよね!少し不器用な優しさにキュンときます(o´艸`) (2020年2月20日 9時) (レス) id: b334f4b37a (このIDを非表示/違反報告)
閃光のまりあんぬ - とっても面白いです!! 更新頑張ってください! 楽しみにしてます☆ ちなみに私は藤田さんファンです…! (2020年2月19日 23時) (レス) id: 68c769878e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年8月13日 19時