第拾捌話_居場所 ページ20
夜の帳が降り、置屋もが眠りにつく頃。
静かな環境の中で、布団に潜って考える。
これから自分が何をしなければならないのか。どう動くべきなのか。
先輩のお姐さん方が着なくなった着物を回してくれたので着る物には困らないだろう。
更に着付けの方法も音奴さんが教えてくれた。……どんな育ち方してきたんだい?と少々呆れ気味だったけれど。
しかし、音奴さんのお陰で明治の生活方法がなんとなくわかった。
現代と違いすぎて戸惑うことばかりだけど、音奴さんとなら、これからもやっていける気がする。
音奴さんの存在にものすごく救われていて、彼女がいなかったらと思うととても恐ろしい。
音奴さんはとても姉御肌な人だ。きっとこれからもわからない事は教えてくれるだろうし、助けてくれるだろう。しかし、いつまでも甘えていられない。
その為には現代にも戻る方法を探さなければならないだろう。
この日常はいつまで続くのだろうか。
いつになったら帰れるのだろうか。
友達はどうしているのだろうか。
父も母もいない、親戚もいない私を探してくれる人はいないのではないか。
考えれば考えるほど、気分は落ち込む。どんどん悪い方へ考えてしまう。もしかしたら、友達は私がいなくなって清々しているかもしれない。
家は、どうなる?
私の荷物もお父さんとお母さんの荷物も家に置いてきている。
家族で撮ったたくさんの写真。帰れなければ二度と見る事はできないだろう。
音のない空間は不安を加速させる。
たった1日なのに帰りたいと、強く思う。
これがホームシックなのかな。
明治時代が嫌いなわけではない。
ただ、今いる場所が自分の居場所だと思えないだけだ。
この時代で嫌な目にあったわけではないし、とても優しくしてもらったけれど。
それでも。
だとしても。
心の奥底にある帰りたい気持ちは収まらなかった。
隣の布団では音奴さんが寝ている。
……迷惑をかけるわけにはいかない。
前を向かなければ、前向きに頑張らなければ。
明日も宴会の予約が入っているのだ。
やることもやれることもたくさんある。
そう思うものの、涙が頬を伝う。
一度流れ出してしまえば、どうすることもできなくて。
私は布団で声を押し殺してできるだけ静かに泣いた。
少しでも迷惑にならないように。
強い思いとは裏腹に、涙はなかなか止まらなかった。
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小崎相良(プロフ) - あららさん» コメントありがとうございます!私も芽衣ちゃん好きです!こちらこそ、これからも宜しくお願いします! (2019年6月30日 20時) (レス) id: bb37bfea9e (このIDを非表示/違反報告)
あらら - めちゃくちゃ面白いです!めいちゃん好きなんで話に出てきて嬉しいです!これからも更新を楽しみに待ってます! (2019年6月29日 23時) (レス) id: 3866ce7f97 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小崎相良 | 作成日時:2019年6月15日 0時