わたしの夢。 ページ9
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フョードル・ドストエフスキーという男と出会ったあの日、武器を手渡された。AK-47、カラシニコフの小型銃。これで罪深き者達を粛清していくのです、彼が云った言葉が脳裏に焼きついて離れない。目を閉じる。思い浮かぶのは両親の死に顔ではなく、私が粛清という名目で殺めた五人の罪人達とフョードル・ドストエフスキーの薄ら笑いだった。どちらも悪夢にはかわりない。
「こら。
優しい声。大好きな声。
私はゆっくりと目を開ける。
二日振りに、安吾さんが帰って来ていた。
仕事が余程忙しく、徹夜続きだったのか眼鏡越しからでもわかるくらい隈がくっきりと残っている。
「お帰りなさい、安吾さん」
「……ただいま……眠そうですね」
「安吾さんの方こそ」
何れ、彼とはお別れが来るからその時までもう少しこの時間を噛み締めていたい。起き上がり寝室まで行くのも億劫だったので私今日此処で寝ます、と云う。安吾さんは溜め息を吐くと私の腕を引っ張り、抱き上げた。そのまま
「……ありがとうございます。お休みなさい、安吾さん」
「ええ。いい夢を」
安吾さんに頭を撫でられ、私はゆっくりと目を閉じた。
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「泉鏡花に両親を殺害されました」
鏡花ちゃんを指差しながら、そう云った彼女があれ以降僕らの前に姿を見せることはなく、僕らはまた普段の生活に戻りつつあった。でも、あの出来事はそう簡単に忘れられるものじゃない。それくらい、衝撃的だった。
「……大丈夫？」
いつもより少し遅い夕食を食べながら物思いに耽っていると、鏡花ちゃんが不思議そうに僕の顔を覗き込んできた。
「だ、大丈夫だよ！テレビでもつけようか」
僕はテレビのリモコンをつける。
「えぇ、緊急連絡です。
つい先程、ヨコハマ赤煉瓦倉庫の近くで男性の死体が発見されました。男性の身元は藤嶋総太。少女連続誘拐事件の犯人とされており……」
ニュースキャスターの女性が深刻な表情で語っていた。凶悪な犯罪者が殺される事件はこれで五件目だ。殺されるのは罪人だけ。そこから一部では「蒼王の再来」なんて呼ばれている。
鏡花ちゃんの顔が不安げに曇ったのを見て、僕は大丈夫だよ、と微笑んだ。
だって、鏡花ちゃんは何も悪いことをしていないのだから怯える必要がない。
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