わたしの救世主。 ページ16
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「じゃあ……交渉決裂だね」
彼のその言葉が合図となって、眼鏡の男性がこちらへ歩いて来た。その手には手錠が握られている。私を捕まえて、警察に引き渡す気なのだろう。
「私の殺しは許さないのに、泉鏡花、そしてその包帯男さんの殺しは許すのですね」
彼の顔が、悲痛に歪んだ。
だってそうじゃないか、仲間の殺しはあっさりと許し揉み消すのに他人の殺しは許さないなんて。
「残酷なのですね、貴方達は」
男性の足が、止まった。
私はその不意の瞬間を狙って、引き金を引く。絶命した罪人を放り投げると、目の前の男性が地面に座り込み、絞り出すように声を出した。
「……何故だ。何故なのだ……誰が間違っていたのだ……俺はただ……俺は……」
譫言のように呟く男性を見下ろしながら、ゆっくりと口を開く。
「少なくとも、これだけは云えます。
間違っているのは───貴方ではないと」
男性は手で顔を覆い、嗚咽に近い叫び声を上げた。
何故、憎き探偵社員の心を救うようなことを云ったのか、自分でもわからない。ただ一つわかるのは、この人からは罪の色も腐敗臭もしなかった。
私は頬についた返り血を袖で拭い、茫然としている探偵社員を眺めた。
「……生憎、私は国木田くんみたいに優しくはない。君がこれからも罪人を殺し続け、鏡花ちゃんに復讐するというのなら、我々探偵社は君を排除することだって構わない」
どの道、探偵社員に囲まれたこの状況からは逃げられない。私がすべてを諦めかけた時───
目の前が真っ暗になった。
私達を照らしていた外灯は消え、月は雲に隠れ見えなくなる。何事だとその場にいた全員が動揺した。
何も見えない暗闇の中、口が塞がれた。
きっとあの包帯男だと全身全霊で抵抗する。
「動かないでください」
その声は聞き覚えのあるものだった。
間違いない、この声はホーソーンさんのものだ。
「はいカモンカモン！！」
もうひとつ、聞き覚えのない妙にハイテンションか声が聞こえ、ホーソーンさんが此方です、と私の背中を押した。
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「……え？」
そこは河川敷でどう考えても今までいた場所ではない。周囲を見回しているとホーソーンさんの仏頂面が視界に入った。
「……一体何が……？」
「フハハハ！それは私のお陰さ！」
陽気な声が降ってきて、道化師のような格好をした一人の青年が突如、姿を現した。
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