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降龍 ページ25

「太宰さんとうとう刺されたか……」
骸砦を守護する様に現れた巨大な龍を見上げ、ぽつりと呟いた。
恐らく中也さんが今上空で、異能特務課の機密作戦用輸送機『鴻鵠』にて『汚濁』の準備をしている事だろう。
映画では『汚濁』で龍を斃し、太宰さんの顔面を殴る事で彼を蘇生し、『汚濁』を無効化されていた。それにより二人は生還するが、太宰さんも中也さんも上空にてそれを行っている。
映画の演出上では骸砦の残骸に目立った衝撃もなく降り立つが、私という特異点(イレギュラー)がいる以上、そういった細々とした所に不安材料が残っている。

新たに受肉するであろう澁澤本体は、若手三人――とはいえ内二名は歳上――に任せて平気だろう。敦君もあの様子なら、すぐにでも納得出来る答えを得られる筈だ。背中なら充分に押した。彼等に対しては、やれることはやった。
――ならば私のすべき事は一つ。

轟音がし、上空をまた見上げた。
龍が何かと戦っている。
中也さんだ。
荒覇吐(カミ)の門を開いた彼が、龍に向かっていた。
龍の尾が無数の光線を放つ。それが檻となり中也さんを搦めとる。だがそれは内部から弾き飛ばされた。骸砦のすぐそばにある擂鉢街を作り出した荒覇吐は嘗て自分を閉じ込めていた物を全て壊した。その荒覇吐を宿す中也さんを檻に閉じ込めるなど、可能な筈がないのだ。

重力子弾と龍の咢から放たれる光弾がぶつかり、衝撃波が走る。地上まで届くそれに、私は伏せる。光が空を埋めつくしていた。紅を纏った黒い影が空から落ちるのが見えた。爆風に巻かれたように吹き荒れる砂埃から顔を庇う。

更に轟音が響く。
顔を覆いながらも見上げれば、三十階以上ある高層ビルが浮き上がっていた。
それが一撃、二撃と龍に打ち下ろされる。聞いたことも無いような雄叫びが聞こえた。
龍が光弾を撃つ為に口を開く。そこに三撃目が叩き込まれる。龍に隙が生まれる。中也さんはそれを見逃す筈もなく、重力子弾を撃ち込んだ。
閃光が走り、真紅の光が溢れ霧が吹き飛ばされる。
骸砦が形を失っていく。

光の中心地に白い影があった。それを黒い影が殴り掛かる。
太宰さんと中也さんだ。きっと今頃解毒剤が回って『汚濁』が解除されている事だろう。
それを見て、私はその下に目を向ける。
――彼処だ。
骸砦の残骸が重なりつつある場所。そこに、太宰さんも中也さんも降りてくるはずだ。
私はその場所を目掛けて走り出した。
二人の我が兄を支える為に。

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