【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

対峙３ ページ21

夜叉の刀はコンクリート片に深く突き刺さっている。敦君がこのコンクリート片を抱えている限り、夜叉は満足に動く事は出来ない。
鏡花ちゃんはハッとすると、地面を蹴って夜叉白雪に飛び付いた。普段から右肩に掛けている襷を夜叉の細く白い首に回し、自身の体重で締め上げた。鏡花ちゃんが磨いてきた暗殺術、それで夜叉の動きを封じる。
そして折れた短刀の柄で、夜叉の額の赤い結晶を打ち砕いた。
赤い結晶は散らばると赤い光となってから霧散し、夜叉白雪を包み込んだ。光と共に夜叉が消える。夜叉を締め上げていた鏡花ちゃんが、夜叉にかけていた力の勢いで倒れそうになるのを、敦君が受け止めた。
二人はそれから力が抜けたのか同時に座り込んだ。

「お疲れ様、よくやったよ二人共」
私が声を掛けると、敦君は「いえ」と笑った。
「Aさんが助けてくれたお陰ですよ」
「敦君が私を全面的に信頼してくれた。私はそれに応えただけだよ」
私は穴だらけになった外套を破り、敦君の左上腕に、傷のすぐ下にキツく巻く。それを見た鏡花ちゃんは弾かれたように敦君の腕の怪我を覗き込む。
「傷は」
心配そうに訊く鏡花ちゃんに、敦君は、
「大丈夫……異能(ちから)が戻れば虎の治癒能力で傷も治る」
と答えた。

鏡花ちゃんは安心したように息を吐くと、目線を上げた。そこにあるのは骸砦。
「兄さん、そろそろ刺されるかな」
「何て事云うんです！？」
私に突っ込む敦君に、私もいつの間にかしていた緊張が解けたのか自然と笑みがこぼれる。
そこへ、鏡花ちゃんに古い携帯電話を、戦闘中に落としたのであろう携帯を差し出す者がいた。夜叉白雪だ。もう額に赤い結晶はない。鏡花ちゃんは立ち上がってそっと受け取る。夜叉はどこか優しげな手つきで鏡花ちゃんに携帯を握らせると、光となって鏡花ちゃんに吸い込まれた。
「……異能力が戻ったんだね？」
鏡花ちゃんは小さく頷くと、携帯電話の紐を結び直して首にかけた。
敦君は安心したようにふっと笑うと、自分の体に目を落とした。
「僕には、虎の治癒能力が戻ってない」
左上腕の傷は開いたままだ。止血の為に傷の下に外套の切れ端を巻いてはいるが、衛生面を考えて直接傷には触れさせていない。恐らく、全身も痛いままなのだろう。
「なんで、二人は異能力が戻ったんだろ？」
敦君の傷は、まだ治らない。
そこに、咳き込む音が近付く。その音の主は傷だらけだが、眼差しには自信が溢れている。
「……お前も異能力が戻ったのか、芥川」

受け入れること→←対峙２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す