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対峙２ ページ20

「敦君！」
白虎が咆哮を上げ、敦君に前足を振り下ろす。敦君はそれをギリギリのところでよける。あと数センチの差だ。白虎の爪が、振り下ろされたところの地面が抉れた。コンクリートがいくつかの大きな欠片になった。
出会った時、虎になった敦君と軽い戦闘になった時にも思ったが、物凄い力(パワー)だ。人の体など、常温のバターのように容易く削り取れるだろう。
それでも、敦君は怯まずに白虎に向かっている。

「成程ね、そこまで私を信頼してくれるか……！」
敦君はきっと自分が虎に向かったところで赤い結晶を壊せるとは思ってはいないだろう。でも、自分から向かって行った。
即ち、私の『囮作戦』を信頼してくれているという事だ。
それならば、私のすることは一つ。

私は白虎目掛けて奔りだす。
白虎の鋭い爪が、敦君を狙う。敦君は腕から血を、脂汗をも滲ませながらも、白虎の注意を引き続ける。
私は奔る。
肩に掛けていた外套を引っ掴み、袖口を持つ。
そして白虎の死角に完全に回り込んだところで、馬乗りになったところで外套を使い、動きを食い止める。黒い外套が、丁度猿轡のように白虎の牙と牙の間に入った。
私は袖口を引っ張り、白虎の動きを封じる。その間にも、白虎の抵抗で、決して安物ではない外套には穴が開いていく。

黒い外套。私の憧れの人を近くに感じていたくて、憧れの人と同じになりたくて、首領に購って貰った外套。かつてのあの人が身につけていたそれと同じブランドの、女性物のオーダーメイドの外套。
御免なさい首領。六年前に頂いた外套、ボロボロにしてしまいました。でも――。

「今だ！」
私の叫びに呼応するように、敦君が先程出来上がったばかりのコンクリート片を振り上げる。空気を震わせるような咆哮が響く。
「うああああああ！！！」
コンクリート片は白虎の額の赤い結晶を砕いた。煌めきながら結晶は散ると、白虎は青白く発光してから消えていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
荒い呼吸が聞こえる。敦君の肩は大きく上下していた。そして、敦君は目の前から虎が消えたことに安心したからか、コンクリート片を抱えながらへなへなと座り込んだ。

だが、背後から聞こえた激しい金属音に瞬時に立ち上がり振り返った。
鏡花ちゃんの短刀が折れた。夜叉の刀の切っ先が鏡花ちゃんの喉を狙う。
「鏡花ちゃん！」
敦君は抱えたままのコンクリート片で夜叉の刀を受け止めた。

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