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吐息２ ページ18

敦君に続くように鏡花ちゃんも云う。
「マフィアの殺しと探偵社の殺しは違う」
その瞳に影は無い。
芥川君はそれを見ると、顔を逸らして「己の人生に、価値を見出したか」とぽつり零した。
鏡花ちゃんはその様子に疑問符を浮かべたが、元の無表情に戻った。ごうんごうんと昇降機は下がっていく。
「兎も角だよ、君等が異能を取り戻さない事には澁澤に辿り着けない。所有者の元に戻らない限り、異能は襲いかかってくるからね」
「赤い結晶、あれを壊すんですよね」
敦君はそう云うと、襲われた事を思い出したのか身を震わせた。敦君の異能はあの巨躯をもつ獰猛な虎だ。
「そう。それと、異能は基本的に持ち主以外を襲わない」
鏡花ちゃんは頷いた。夜叉が敦君や芥川君を狙う事がなかったのを一番近くで確認している。鏡花ちゃんは私の言葉を引き継ぐように云う。
「持ち主が囮になって、他の誰かが異能に隙を作る。そして結晶を破壊」
「囮……」
敦君は心ここに在らずと呟いた。気持ちはよくわかる。あんなスピードで襲い掛かる虎とか恐怖の対象でしかない。
「囮作戦は大変だろうけど、これが現状の最適解だよ」

昇降機が止まり、扉が開いた。ダクトに囲まれた地下通路が見えた。此処に来たのは何年振りだろうか。
金属音が反響する中、地下通路を進んでゆく。
「芥川君、私は敦君と鏡花ちゃんの援護(サポート)に回るけど大丈夫？」
「構いませぬ。羅生門の間合いは、羅生門の主たる僕がよく把握しております故」
芥川君は表情を変えぬまま答えた。実際、映画ではひとりで羅生門の対処をした芥川君だ。余程自信があるのだろうか。
「それに、羅生門は戦い倒す価値ある敵。Aさんと云えど、扶けは要りませぬ」
「自分を乗り越える、ねえ」
私の呟きが溶ける。

広い空間に出ると、芥川君は鏡花ちゃんの胸元に揺れる携帯を見て云った。
「鏡花、母親の形見の携帯は、まだ大事にしているようだな」
「母親？」
芥川君は「そんなことも聞いていないのか」と蔑んだ。
「……聞いてない。大事な物だとは聞いていたけど」
鏡花ちゃんは会話を断ち切るように芥川君に訊いた。
「最短ルートは」
これ以上、夜叉にまつわるものの話を敦君に聞かせたくない、そんな思いが冷たい声色となっていた。
「ゼロゴーゼロゴー」
芥川君は即答した。私は軽く除け者のようになっている敦君に声を掛けた。
「敦君、細い通路に入ったらなるべく息を止めた方がいいよ」
敦君は疑問符を浮かべていた。

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