【文スト】知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

写真 ページ32

「どうも僕はここで無償残業をしているようだ。今日は失礼しますよ」
「何だ、帰っちゃうの？」
太宰さんは、「えー」だとか「ちぇ」とでも云うかのように、つまらなそうな声をあげた。それこそ、公園の砂場で一緒に遊んでいた友達に帰られる子供のように。
「正直なところ」
安吾さんは口元だけで微笑した。
「ここに来て、貴方がた二人と酒を飲んでいると、自分が黒社会で非合法な仕事にたずさわっている事を忘れそうになるのです。――ああ、Aさんもですが。マスター、ご馳走様」
「私も、か」
私は銅杯の中身を口に流し込んだ。生姜と炭酸の刺激に酔いながら、カウンターの上の唐紅色を唯々見ていた。
「その鞄は出張の荷物か？」
「そうです。大したものは入っていませんよ。煙草に護身用の武具、携帯雨傘」
携帯雨傘は安吾さんの証言には合わない濡れ方をしていた。

「あとは仕事用の写真機くらいです」
それを聞いた太宰さんはぱっと顔を輝かせた。
「そうだ、写真を撮ろうよ」
その声は私が聞いたことないほど明るかった。
「記念にさ」
「何の記念だ？」
「三人が、否、四人がここに集まった記念。ほら、我々三人が集まる事はあれど、彼女とここで話すだなんてないだろう？ あるいは安吾の出張完了祝いか、不発弾処理祝い。その他何でも 」
「幹部殿の仰せのままに」
安吾さんは黒い写真機を出した。
「かっこよく撮ってよ」
安吾さんは苦笑しながら写真機を向けていた。
「このアングルが男前に撮れる」
太宰さんはあの有名な写真のポーズをしていた。
それを見て感激していると、
「Aさんもどうです？」
と声を掛けられた。
「じゃあ私も……。あ、えっと織田作さん？ は此処で安吾さんは太宰幹部殿の隣で――」
私が三人の立ち位置について指示していると、
「え、撮るの？ 君が？」
と太宰さんは素っ頓狂な声をあげた。
「え、駄目なんですか？」
フィルムカメラ貴重だから仕方ないか。
「それはいいのですが……Aさん、写らなくていいのですか？」
「ああ、其れか。御三方が良いなら私も写りましょうかね。でも先ずは私が撮ります。このような写真機に触れる機会なんて中々ないので」

そのように写真を撮り撮られをしていると、ふと織田作が太宰さんに問うた。
「太宰。何故急に写真なんだ？」
「今撮っておかないと、我々がこうやって集まったという事実を残すものが何もなくなるような気がしたんだよ。何となくね」
太宰さんはにこりとした。

関わったら見過ごせない→←偏頭痛と胃痛

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す