漆拾壱 ページ29
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私が挨拶する間もなく、奥さんは満面の笑みを浮かべて私の肩を叩く。その行動にも驚いたけれど、それ以上に奥さんの口から発せられた言葉に私は愕然としてしまった。
「榊山に嫁ぐ
『嫁ぐって……まだ、決まったわけじゃありません。』
「そんなこと言っちゃって〜。あっ！ もしかして、宗介君の奥さんになるのが不安なの？」
『いや……』
「大丈夫よぉ。嫁入り前はね、皆そう思うのよ。まあ宗介君はちょっと甲斐性がないけど……ほら、優しくていい子じゃない？ あなた達は昔から仲良しだったんだから、大丈夫大丈夫。きっと幸せになれるわ」
私に話す隙を与えてくれないものだから、押し黙ってしまう。もしこのままこの流れに負けて、一度破談になりかけた宗介さんとの縁談を押し通されてしまえば。
私はもうこの町から出られないような、そんな気がした。
結婚してほしいという正式な申し出もなければ、私から縁談をお断りするという申し入れもしていない。早く決着をつけなければと分かっていたけれど、世間では想像していたよりも勝手に話が進んでいたようだった。
私が黙ったままであることに奥さんは目くじらを立て始める。その目つきに喉が変な音を鳴らした。
「棗ちゃん。榊山に嫁げるなんて願ってもない良縁なのよ。良家は良家同士で
……この目、この目だ。窮屈で堪らない、私を見る
私の右目を奪った鬼も、目線を嫌っていた。そういう意味では同情をしてしまう。……分かるわ、私もこんな目は嫌い。
右目の傷が熱をもち、痛み始めたような気がした。その痛みはゆっくりと広がっていき、頭痛を引き起こす。奥さんの言葉が耳に入ってこなくなった。
こんな目に晒されるのは久しぶりで。
ずっと忘れていた。あまりにも、蝶屋敷での生活が心地よかったから。
「……とにかく。祝言を早く済ませて、後継ぎを産まないとだめよ。それが女の仕事なんだからね。」
その場しのぎの返事をすることさえままならなくて、私はその場にしゃがみこむ。奥さんの狼狽した声が遠く聞こえた。
「……大丈夫か。」
……大きく、温かな手のひらが私の背中をさする。聞き覚えのある声に、私は深く安堵した。
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三月の専属ストーカーなつめみく - ｷﾞﾕｳｼｬﾝの不器用な感じがめちゃｽｷｨｯ (2023年10月11日 10時) (
レス) @page23 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
Kk - 更新再開ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2023年8月21日 9時) (レス) id: 51f0cf609d (このIDを非表示/違反報告)
香恋 - 夢主ちゃんの心がとても強いのが印象的です。義勇さんと幸せになって欲しいですが、不穏な空気ですね…義勇さん幸せになって欲しいです。。義勇さんの律儀で真面目で美しい雰囲気にピッタリの作品ですね。素敵な作品ありがとうございます。 (2023年6月25日 23時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小鳥遊 | 作成日時：2023年6月20日 0時
