change 〜Another story 8〜

16. ページ16

.


席へ戻ってから、もう皆より先に帰ろうと足元に置いたバッグに手をかけると

ユキ「逃げないで」

そう、一言だけ言われた。

逃げるもなにも…私の中にユキとどうこうなろうって気持ちはもちろんなくて
さっき連絡したばかりの樹が寒い中外で待ってる事だけが気がかりで。

ユキ「さっきの、聞こえた？俺春から東京の店舗で働く」

「へぇ…」

ユキ「俺が別れようって言ったのに…ずっと忘れられなくて…」

そんなこと言われても、私はずっと忘れていたし別れたから樹に出会えたし
ユキには申し訳ないけど、気持ちには答えられないから

ユキ「ごめん、一途ってか未練がましいだけかもしんないけどさ」

「そんなこと言われても…」

ユキ「Aが東京にいるから…会いたくて。今日会えると思ってなかったから、すっげー嬉しい…」

ニッと笑ったユキの笑顔は昔と変わらない
ほんの少し八重歯の覗く笑顔が好きだったな、あの頃は。

でも、今私の頭を埋め尽くすのは、ふふって笑う樹の笑顔だけで

「ごめん、私はユキとヨリ戻せない」

ユキ「彼氏いないんじゃなかったの？」

「……いない」

ユキ「じゃあチャンス頂戴よ…」

手首をギュッと掴まれた

やめて…触らないで…


切なそうに微笑む彼に、ほんとの事を教えようか迷った
彼氏いるって言ったら、解放してくれるかな…

でも、樹の未来を潰すことになりかねない？


「しっかりしてよ、酔ってるの？」

ユキ「今日そんな飲んでない」

「とりあえず私、もう行くね？」

ユキ「逃げないでよ…」

「逃げるもなにも…もう帰ろうと思って…」

ユキ「じゃあ送るよ」

そう言って上着を手に取るユキ…
いや…それは困る…

「いや、いいよ」

ユキ「危ないじゃん、1人で帰るの」

いや、その優しさ今はいらないんだって…
樹、待ってるし…


「いや、本当に大丈夫！」

私はユキを振り切るように立ち上がって、皆に帰るねって声をかける

そのまま急いでパンプスに足を突っ込んで店を飛び出した


.

17.→←15.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す