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「彼女の様子はいかがでしたか」
人気の無い教室。太陽が昇りきって、青く輝く空を見つめる野坂に、西蔭はそう聞いた。
「前に比べ血色が増していたよ。栄養が足りていなかったんだろうね」
彼の薄い笑顔は、とてもその事実を喜んでいるようには見えない。しかし、西蔭は彼の様子を当たり前のように受け止める。
「そうですか」
「様態が良くなれば僕達の高校に入学してもらうつもりなんだ。彼女の親族と話はする予定だけど、正直彼らの手元に戻す気はない」
「返したところで彼女の安全は保証できないから、ですか」
「失った分の時間は取り戻せない。僕に出来るのは、少しでも早く標準的な生活を取り戻してもらうことだ」
西蔭は、顎に指を添え窓の外を見つめる野坂の背中を見つめた。
かつて空虚だった彼の目にも、時間の経過と共に光が戻りつつある。そしてそんな彼の瞳は、今一人の少女に向けられている。
野坂の思考力や判断力は、同世代の人間と比べ物にならない程に優れている。だからこそ彼の行動には無駄がない。
だからこそ不必要なものは即座に切り捨てる。それが野坂という人間だ。
そして、つまりあの烏丸Aという少女は、彼にとって必要な存在であるということ。側に置いてまで療養を手助けしようとする程、重要な人間なのだ。
「…西蔭」
「はい」
「君は何か勘違いしているね」
振り返った野坂は、口元に小さな笑みを浮かべていた。西蔭は、真っ直ぐにその端正な顔立ちを見つめ言葉を待つ。
「僕が彼女を救うのは、それが僕の責任だからだ」
「責任、ですか」
「僕は彼女をずっと、有効な治療を受けられないあんな状況の中に置いていたんだ。アレスの内部を調べ上げた僕なら、もっと早く救えたはずなのに」
彼はその掌に視線を落とし、ぐっと握りしめた。初めてその場に、感情が目に見えて現れた。
「彼女が今まで社会に復帰出来なかった責任は、僕に有ると言って良い。だから僕は、少しでも早く彼女を回復させてあげたい」
同情でも、世辞でもない。野坂のその目が、彼の言葉が嘘でないことを示していると西蔭には分かる。
「その為に、僕自身が彼女を支えたいと思うんだ」
「…彼女が、誰の手助けも無く生きていけるように」
そしてその言葉もまた、本心から出た言葉だった。
少なくとも、その時までは。
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています!これからも体に気をつけて頑張って下さい!応援しています! (2020年4月26日 20時) (レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます!本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です!この小説を作ってくれてありがとうござます!これからも体に気をつけて頑張って下さい!応援しています ! (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます !(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい!応援しています。! (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:輝 | 作成日時:2019年8月8日 23時