▽ ページ38
「久しぶりだね」
野坂が浮かべた笑顔は、何処と無くぎこちなかった。構わず彼女は微笑み返してノートを開く。
『今日も会えないと思っていました』
差し出したページには彼女の文字が並んでいた。素直な一言。野坂が抱える葛藤など知りもしない彼女の言葉は、野坂が選択した道筋をより一層確信あるものにした。
「体調はどう？」
『元気です』
「そう、良かった」
ペン先が少しずつゆっくりと動く。野坂はその様子を見つめながら、笑みを溢した。
『会いたかったです』
瞳が野坂を真っ直ぐに見つめる。口元には、小さな笑顔が浮かんでいた。何週間も心の奥に潜めていた言葉だったのだろう。
野坂自身が段々と満たされていくような、空虚さが消えていくような感覚。
「僕もだよ」
誰にも言うことの無かった甘い言葉を吐くことも躊躇わなかった。それは、彼女が嬉しそうに微笑んで見せるからだ。
今の野坂は、彼女の柔らかい笑顔を見るためならば例え嘘であろうとそんな言葉を口にできたかもしれない。
しかし今回は、心から願った言葉だった。微笑み合う時間が心地よい。
「一人にしてごめんね。側に居るって言ったのに」
こんなにも簡単なことだったのに、どうして踏み留まっていたのだろう。野坂の中に募る後悔もまた、彼女が癒していく。
『平気です』
『また会いに来てくれたから』
今度は上手く言葉が見つからず、野坂は押し黙った。普段の饒舌は、彼女の前では使い物にならない。
「…ありがとう」
結局は単純な表現に落ち着いた。彼の感情を明確に表すにはそれが一番だった。
「不安にさせたことを謝るよ。自分と向き合うのに、少し時間が必要だったんだ」
野坂の視線を受け止めた彼女は頭をこてんと傾けた。それでも野坂は微笑むのを止めない。
多くは語らなくて良かった。それは野坂の自己満足に過ぎないが、理解されなくとも事実を彼女に伝えたかった。
「烏丸さん。改めて、僕に君を支えさせてくれないかな」
彼女は野坂を見つめた。返事に困って、助けを求めているようだった。
『もう野坂さんには支えられています』
「なら、これからも僕を頼り続けて欲しい。退院してからも、僕ができるだけのサポートを尽くすよ」
彼女の表情がゆっくりと変化していく。野坂の感情に反し、彼女の表情は曇った。夕日が明るく照らす病室で、彼女の俯いた顔に陰がかかっていた。
『退院後は父のところに戻ります』
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
