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「烏丸さん、僕に体を預けて」
彼女の脚は、胴体を支えることを放棄していた。野坂は骨格が手に取るように分かる程に細い肩を掌で受け止めながら、自身の胸の中に収まるほどの体を、片腕でそっと包み込む。
焦りよりも、判断力不足が招いた目の前の現状を受け入れる冷静さの方が先行した。人通りが疎らになる時間帯。躊躇い無く、彼女の瞳を覗き込んだ。
宝石のような幻想的な瞳に、涙が薄いベールを纏わせる。透明感さえある白目に、細かな紅い線が浮かんでいた。
「無理をさせてごめん。僕が付いていながら…」
彼女は桜色の唇を噛んで、静かに否定の意を示した。そうして、今までに無い程の至近距離で、お互いの視線が交わった。
不必要な雑念が形を帯びる前に、野坂は病院の方へと顔を背ける。玄関に歩いていく人の姿が、唯一視線を逃がすことができる先だった。
触れていた肩が揺れる。温かな重みが途端に軽くなったことに驚き視線を戻すと、彼女は出発時と変わらずその脚で自身の体を支えていた。
「烏丸さん。無理しないで」
その目には常に涙が押し寄せ、耐えきれずに長い睫毛を割って頬を流れていく。野坂は静かにその滴の跡を視線で追うと、華奢な体を抱き寄せるようにお互いの体を密着させた。
そして決められていた台詞のようにごく自然に、しかしながら誰に対しても放った経験の無い言葉を彼女の耳元で囁く。
「僕の首に腕を回して、しっかり掴まっていて」
「絶対、離さないでね」
野坂は身を屈め、彼女の膝裏に細く引き締まった腕を入れ込んだ。彼女の体が浮くまでの時間は一瞬で、彼女は目を見開くとすがり付くように野坂の体に身を寄せた。
「落としたりしないから。安心して」
西蔭程の安定感は無いにしても、野坂もサッカーをする上で必要な程度の筋肉は備えている。彼女の体を持ち上げるなど容易かった。野坂の息は少しも上がっていない。
しかし今彼女の中に、抱き上げられることに対して本来とは違った意味が生まれている。野坂の胸から全身に拍動が響き渡るのは、何を意味しているだろう。
彼女が涙を流しながらも、気まずそうな、恥ずかしがるような素振りで野坂から顔を逸らすのが堪らなく愛らしかった。無反応で西蔭に運ばれたあの時とは訳が違うようだ。
服の上からでも伝わる熱が、彼女に触れている箇所から流れ込んでくる。野坂は視線を玄関まで一直線に向け、病室に戻るという目的を再度確認した。
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
