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翌日彼女の病室に声を響かせたのは、西蔭が告げた通り、制服に身を包んだ野坂だった。



「やぁ、烏丸さん」



対面するのは久しかった。たった一週間であっても、彼女と野坂が出会ってからは殆ど毎日顔を会わせていたも同然だったのだから、長い期間お互いのことを見ていなかったように感じる。


勿論、野坂が抱くような心情を、彼女が同様に秘めているのかは確かめようがないのだが。



彼女が会いたがっていた、と西蔭に言われては、真偽が分からなくとも思考の中に浮かんできても仕方がない。



「暫く会えなくてごめんね。少し、忙しくて」



野坂はそんな風に微笑んで、大きな瞳を見つめた。無垢な色、少しの疑いも含んでいない純粋な視線に、罪の意識を持つ。



本当は、幼稚な自身の本能的欲望を上手く制御する為に時間を要しただけなのだが。



「僕が居ない間、西蔭と仲良くできた?」



コクコク、彼女は首を縦に動かした。その動作に野坂は一瞬言葉を失う。動作。つまり彼女自身の体の動きで、彼女の意思を表したということだ。


野坂が顔を見せない間にも、彼女は人間らしさを取り戻していた。外部からの刺激に対して全くの反応を示さなかったことなど、遠い昔の話のようだった。



「…そっか、良かった」



嬉しさ、の奥にある違和感。気づく前に、キャスターが床を転がる音が野坂の顔を上げさせた。



ピンク色のノート。いくつかのページを飛ばして、またまっさらな一面へ。そのノートの中に、西蔭との会話の一部も記されているのだろうか。



『あいたかったです』


『話したいこと、たくさんあります』



変わらない可愛らしい文字。脈打つ心臓の動きが少しずつ穏やかになっていくように、ひらがなで綴られる彼女の言葉に安心した。



けれど視線の先で桜色の唇が優しく弧を描いた瞬間、野坂は息が詰まるような感覚に陥った。陶器のように美しい表情の上に、彼女の中にある感情が浮かび上がっているのだ。


見たかった筈の笑顔、彼女の本当の感情。それなのに、どうしてこんなにも苦しくなるのだろう。



「…僕も、色々な話を聞かせて欲しいよ」



自分以外の人間が彼女に何かを与えたこと。野坂はその事実に対して、酷く嫉妬していたのだ。違和感の正体に気付いていながらも、野坂は彼女にまた微笑みかけた。


醜く幼いその感情に、封をしたつもりで。

第四章 カクシゴト→←▽


ラッキーカラー

あずきいろ


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設定タグ:イナズマイレブン , 野坂悠馬 , イナイレ   
作品ジャンル:恋愛
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています!これからも体に気をつけて頑張って下さい!応援しています! (2020年4月26日 20時) (レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます!本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です!この小説を作ってくれてありがとうござます!これからも体に気をつけて頑張って下さい!応援しています ! (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます !(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい!応援しています。! (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月8日 23時

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