百五四 ページ4
.
「ッ…」
「ハッ、だんまりか！いいぜ、今度俺と勝負しな。俺が覚えてるんだから、アンタ強い筈だぜ」
そんな雑な覚え方あるか。絶対負けると決まってるじゃないか、だってあっちは鬼武蔵なんて異名もある。比べて俺は片腕にハンデ。彼奴の一太刀を振り切っただけで強いと認識されては困る。これはもう、すぐに降参すると言うしかあるまい。
森長可はそれを言って満足して他の家臣の所へと行ってしまった。
「はぁ…」
これ以上、誰かに話しかけられて、嫌なことが増えるのでは無いかと思うとうんざりだ。ここはもう退散しよう。
そっと、退室した。光秀の様子を伺えば、ずうっと酒を飲んで話している。なんだアイツザルだったのか。
そういえば、髪型が変わっているな。まあ確かに信長に刀で切られた髪のままは流石に可笑しい。何より見ていて不憫だ。
「寒いな…」
もう少しで年も明ける。すっかり冬だ。嗚呼、もう切れた縁。だのに、自分は未練たらしくも男の姿で信長の元に居ることを選んだ。
なんて滑稽な事だろうか。自嘲じみた笑いが出てくる。
ふと、空を仰げばまたも満月だ。信長と酒を交わしたのを思い出した。
「光秀か？」
この冷えきった夜に裸足で縁側に佇んでいたのは信長だった。ここまで示されたように会うのは最早必然なのではないかとまで思う。
「！…信長様、っ…光慶でございます」
「む…光慶か、暫し付き合え」
帰るつもりだったのだが…とは思ったが、信長は俺は了承するものだろうと思って背を向けて歩き出してしまったので、急いで後を追う。
通されたのは、帰蝶の部屋。つまり俺の部屋だった。それも、俺がいた時と何ら変わらなく時が止まったように何もかも変わらない。塵一つもない。
信長は俺が入ると、戸を閉じ酒を出した。…まさか、俺と呑むからと宴で呑まなかった訳では無いだろうな…？流石に考えすぎだとは思うが。
「信長様この部屋は、」
「……帰蝶Aの部屋だ、正室のくせに質素で詰まらん部屋だろう」
改めて、信長から言われてしまうと言葉に詰まった。皮肉めいた言葉も、それはただの淋しさを気取らせない強がりにしか聞こえない。
信長は酒を酌み、一息に飲み干す。
「信長様、一つお聞きしたいことがあります」
「なんだ」
「信長様は何故私に貴方の話を聞かせて頂けるのでしょうか」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 279人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
momosui(プロフ) - これで4週も読み返してしまいました(笑)ほんっっとに最高です！！！続編、楽しみにしてます！(*^^*) (2023年3月23日 19時) (
レス) @page37 id: d7576d8f53 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - シウさん» 最後まで読んで頂きありがとうございます😭 歴史好きな方に読んで頂けて嬉しいです…実はこそっと完結してました笑 続編もよろしくお願い致します！ (2023年1月26日 2時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - ルンバさん» 最後まで読んで頂きありがとうございました！中々更新が不定期でしたのでお待たせしてしまいました…本当にギャグだったはずなんですけどね…！時代が時代なので仕方なすびと心に言い聞かせ続けて書きました笑 続編近日公開予定です！またよろしくお願いします！ (2023年1月26日 2時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - 町谷。さん» 最後までお付き合い頂きありがとうございました！私も少し寂しいですよ〜戦国時代オタクなので笑 続編公開近日中に決まりました！是非またよろしくお願いします😌 (2023年1月26日 2時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - Lu__A09さん» 最後まで読んで頂きありがとうございます！そんなに経っていたんですよ…続編はちょこっと辛抱かもしれませんが、また完結目指して頑張ります！続編そろそろ公開予定です！ (2023年1月26日 2時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：愛之助（元大手裏剣）
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時：2020年8月16日 18時
