中也、犬を飼う

子犬が一匹 ページ2

俺の前に子犬がいる


ついこの間青鯖と話したばっかじゃねぇかよ
その時は子犬がいたら飼うって云った

だがしかし今はどうだ

明日非番では無い
連れ帰って一日何もせず放置は犬からすれば誘拐も同然
俺はそんなに無責任では無い
可哀想だがここにおいていくしかない


こう思っているが彼の心の奥底では飼いたいという気持ちでいっぱいである
自分の家で飼えなくても誰か───他の部下が飼えるかもしれない……
気持ちが揺れている
おいていくと決めたのにも関わらず動かない
硬直している


まずは深呼吸……


やっぱダメだ
意思が弱いな……
あの目で見られたら俺は正常な判断が出来なくなるだろう
迷わず連れて帰ることになってしまう


……次、次振り返って、若しいたら連れて帰ろう


三歩歩いた中也は振り返る


子犬は路地裏の闇で見えなくなっていた


悔しさと寂しさと安心感が入り交じる中歩く
後ろ姿は疲れているのもあるがどことなく覇気がなく
いつもより小さく見えた
そして1歩の幅がとても狭い


やっぱりああいうのは都市伝説の類なのか……
はは……そうだ、今のは夢だったんだ……
夢じゃないわけがねぇ……


ついに現実逃避までし始めた
涙を隠すように風が吹く

と、その時彼の足に柔らかい感触がした

見なくても分かった
あの子犬だ
絶対に

笑みを隠しきれない顔で足元を覗く

それは白いゴミ袋に包まれたゴミであった


虚しい
彼の心は一瞬にしてその感情で満たされた
しかし


「わん！」


「……はぁぁ！？」


またも一瞬にして感情が変わった
もちろんいい方で
怒っているように聞こえるが今にも嬉し泣きしそうなくらい喜んでいる


「中原姓を貰ってくれ！」


これが後に大きな事件を巻き起こすとは誰も想像していなかった

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