県立烏野高等学校、事務職員です。【２】

076　心許 ページ26

「……あの、何で俺が迷子って……」

　「黒尾くんから電話があったんだよ。すごく心配してから、戻ったらちゃんとごめんなさいしようね」

　「……はい……。先生も、ありがと……」

　「いーえ」




　少し心を開いてくれたのか、研磨くんの方からも話しかけてくれる。

　「先生、運転うまいね」

　「え、そう？」

　「うん、俺の親より安心できる」

　「それなら良かった」




　だんだんと込み入った話もできるようになってきた。


　「ね、名前教えて」

　「佐藤A」

　「……Aさんって呼んでいい？」

　「いいよ」

　「俺のことも研磨くんじゃなくて研磨でいいよ」

　「……研磨くんで」

　「……なんで」

　「呼び捨てって慣れない」

　「……そう」




　……なんか、すごい懐かれた気がするのは気のせいだろうか。

　助けたから？ 助けて私を親と認識したみたいな感じ？ 猫？

　赤信号で停まった時に、チラッと研磨くんの方を見ればこっちをガン見していた。

　さっきまで目も合わせてくれなかったのに。

　なんか観察でもされてんのか私は。



　「そこ、ダッシュボードにお菓子入ってるから何か食べていいよ」



　黙って見られるのが気まずくなり、私から言葉を発する。



　「ありがと、これもらう」



　そう言って何かガサゴソしてたけど、私はどれを食べたのか分からない。



　「あともうちょっとで着くよ」

　「……やだな」

　「何で？ 帰りたくないの？」

　「クロに怒られる」

　「あー、それは仕方ないね。研磨くんさ、前もあそこで迷子になってたよね？」

　「……あの時、翔陽の後ろから来た人ってAさんか」

　「そうそう、プリン頭だから印象に残ってるよ。あと、ドラッグストアでもすれ違ってるかなー」

　「……それは知らない」

　「ずっと携帯いじってたでしょ」

　「ああ、ゲームしてた」

　「歩きながらは危ないよ。……待って、今回携帯の充電なくなったのもはぐれたのも全部歩きながらゲームしてたから？」

　「……まあ、そうだね」

　「……ちゃんと黒尾くんに叱られてね」

　「……はーい」



　少し拗ねたような研磨くんだが、知らない土地で携帯使えなくなるなんて詰んだも同然だからね。

　私がたまたま黒尾くんに電話番号教えていたから良かったけど！

　なんて研磨くんと話していたら仙台駅に到着。

　真っ赤なジャージの集団を見つけ、その近くの駐車場に停めた。

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