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マグカップを選ぶAの横顔は、
彼女を好きになって良かったと心から思わせてくれるものだった。

この真剣で、優しくて、あたたかい。
そんなAが見れるのなら、いくらでも待てる。


雑貨屋の棚の前で、
小さく首を傾けながら、
Aは真剣に二つのマグを見比べてる。

眉を寄せながら首を傾けるその姿。
誰が見てもただの“悩みすぎ”なんだけど、
俺にはそれが愛しくて仕方なかった。


どちらも似たような生成り色だから、
遠目には違いなんて分からない。

けれど、Aの目には
“何か”が確かに違って見えているんだろう。
きっと声をかけにいったら、饒舌にその違いとか魅力を教えてくれる。




『どっちがいいと思う?』
もしも、Aにそう聞かれたら。
あんな真剣に選んでいるのを見ているからこそ、
どっちでもいいなんて絶対言えない。

だって、
Aの声は絶対嬉しそうだし、
その“迷う”時間を壊したくないから。



他の人の目があるとお互いにわかっていて、
Aが悩み始めた段階で俺はその場を少し離れていた。

一緒にいると、ね。


もし会話をしながら選べたらどんなに楽しいか。
そう考えることもあるけど、
耐えきれなくて電話をかけてしまいたい衝動に駆られるけど。

Aの話を聞くのは、帰りの車の中で。
独り占めできるのもまた、悪くないって知っている。






普通の休日って、
こんなに幸せなんだって思う。
ステージの上でも照明もない、ただの街の中。
それなのに、Aが隣にいるだけで心が躍る。


なんていうか……
この人といる時間って、
目の前の空気が柔らかくなる感じがする。

すぐそばで、一緒にいられなくても。
もしものことが起きても、助けに行ける距離じゃないけど。
Aと一緒に過ごす空間全部が、俺には幸せ以外の何ものでもないから。


俺が守りたいのは、
その空気ごと、なんだと思う。













運よく二人きりになれたエレベーター。
大抵人が乗っているから、諦めて階段を使うことが多いけど。
今日のAは、どこか疲れているように見えたから。

久しぶりのお出かけで、俺がはしゃぎすぎたのかも。
疲れさせちゃったかなって反省する。



エレベーターが動き出して、
金属の箱が静かに沈んでいく音がした。


隣ではAが小さく息をついて。
ほんの少しだけ顔色が白い気がしたけど、
『平気』と笑ったその声は、
いつものAの柔らかさを保っていた。








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作者名:Pino | 作成日時:2025年10月30日 0時

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