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エレベーターは静かに動き出した。
下へとゆっくり沈んでいく感覚。
私はこの感覚が少し苦手で、
元々生理がきていて体調が悪かったのもあって、余計に不快感があった。
金属のきしむような音が、耳の奥でかすかに響く。
紫耀、買い物袋を足元に置いて、私の方をちらりと見た。
「足、痛くない?」
『ううん、平気』
「ほんと?」
『ほんと。…ちょっと冷えただけ』
こういうとき、どうしたって素直になれない自分が嫌い。
紫耀には何も伝えられていないし、
きっと私ことを心配してくれているのに。
紫耀はただうなずいて、私の手の甲を軽く包んでくれて。
その温度が安心をくれる。
でも、それと同時に、胸の奥が少しだけ重たくなった。
……息が、浅い。
自分でもよくわからない。
さっきまで普通に話していたのに、
急に、胸のあたりが詰まるような感じがした。
色々なことが重なってしまったのかもしれない。
どうにかしないと。という焦りだけが募る。
エレベーターの壁に背を預けてみて。
蛍光灯の明かりが、白く滲む。
「A?」
紫耀の声が。少しだけ遠くに聞こえる。
『うん……なんか、ちょっと…』
言葉を探しても、うまく出てこない。
声にする力も、あまり出てこなかった。
その瞬間、
──“ギュッ”という音がして。
エレベーターが小さく揺れて、止まった。
一瞬の無音。
蛍光灯がふっと明滅して、非常灯の白が灯る。
時間が止まったみたいに静かだった。
紫耀はすぐ非常ボタンを押す。
冷静に対応してくれるその様子に、自分だけ息が詰まっているのが情けなくなった。
「……大丈夫、大丈夫。たぶん一時的なやつだよ」
彼の声は落ち着いていた。
けれど、その指先がわずかに震えているのを、私は見逃さなかった。
あぁ、そっか。紫耀も不安だよね。
そう思ったら、紫耀を安心させたいという気持ちもあるのに。
胸の奥の重たさは、じわじわと広がっていく。
頭がぼんやりして呼吸が追いつかなくなってしまって。
『……ごめん、あっ…どぅしよ……』
「A、?焦らなくていいから、ね?」
「ゆっくり吸って、ゆっくり吐いてみよ」
彼の手が、私の肩に触れる。
さっきまで震えていたその手は温かくて頼もしいのに、
自分の体温はどんどん遠ざかって。
“閉じ込められた”という事実が、頭の隅で膨らんでいた。
息を吸うたびに、胸が締めつけられて、
思考がばらばらに散っていった。
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作者名:Pino | 作成日時:2025年10月30日 0時


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