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雨の音が静かに傘を叩く中、
私たちは病院の入り口に立っていた。


握る紫耀の手は少し汗ばんでいるけれど、
それでも温かくて、怖さを少しだけ和らげてくれる。



「……大丈夫、」

紫耀が小さく頷く。
声はどこか、私より不安げだったけれど。
その静かな決意が伝わってきた。





受付で名前を告げ、待合室に座る。
外の雨音に混ざって、心臓の音が大きく響く。
怖さはまだ残っているけれど、今は隣に紫耀がいる。
目を閉じて、彼の手をぎゅっと握ると、少しだけ深呼吸できる気がした。


診察室の扉が開き、医師の前に呼ばれる。
椅子に座ると、紫耀は少し前に身を乗り出して私の肩に手を置く。


「大丈夫だよ、俺がいる」

もう言葉はいらない。
手のぬくもりが、心の中の不安を少しずつ押さえてくれた。




どうして雨が苦手なのか。
きっかけや、これまでの対処。
自分の口から全てを説明するのは、なかなか難しくて。

途中で何度も止まってしまって、
最終的には文字に書くことにして。

それでも、私は“紫耀に”聞いてもらいたかった。
医者に伝えることとか、これからの治療がどうとかって話よりも、
彼と一緒に乗り越えたいと思ったから。






話が終わる頃、
少し肩の力が抜けた自分に気づく。

まだ完全に安心はしていないけれど、
恐怖だけが支配していた昨日の私とは違う。
紫耀が隣で微笑みながら手を握ってくれるだけで、
未来に小さな光を見つけられる気がした。



病院を出ると、雨はまだ降っていた。
でも傘の下で紫耀と並んで歩く私には、それが怖くはなかった。
水たまりに跳ねる雨粒も、少しずつ日常の音に変わっていく。



『また一歩ずつだね』

私がそう言うと、
紫耀が小さく頷いて、私の手を強く握り返した。



灰色の空の下でも、
二人で歩くこの時間が特別に温かく感じられた。
怖い思い出は消えなくても、私たちはそれを抱えながら前に進める。
そう思うと、胸の奥に小さな希望が灯る。



雨に濡れた頬を拭いながら、
私は確かに前に進んだことに嬉しくなって。


「一人じゃないから。もう、ちゃんとAのこと支えられるから」


そう言って紫耀が笑ってくれる。
その笑顔を見て、私もまた強くなれる気がした。

傘の向こうで灰色に揺れる世界も、
もう怖くない。

二人で歩くなら。
雨さえも柔らかく、特別なものになる。










リクエストありがとうございました✨
病院の描写をどうするか…悩んだ結果、迷走してしまいごめんなさい。。

Episode114:パニック You *→←・



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作者名:Pino | 作成日時:2025年10月30日 0時

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