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次の日。
雨の音はまだ、静かに窓を叩いていた。
カーテンの向こうに広がる灰色の空を見て、
昨日のことをどうしても思い出してしまって身が縮こまる。
でも、隣にいる紫耀の手の温もりを思い出すと、怖さが少しだけ遠のいた。
「行ってみよう?」
昨日、彼がそっと呟いた言葉が胸に響く。
否定されることも、急かされることもない。
ただ、隣に立っていてくれて。
絶対に一人にならないという安心が胸に広がったのを思い出す。
紫耀がそっと私の背中に手を添えた。
「大丈夫、俺がいるから」
重くなく、優しく、私を押すその手の力は、
まるでそっと外に踏み出す勇気をくれるみたいだった。
小さく息を吸って、肩の力を抜く。
怖い気持ちはまだ残ったまま。
雨の匂いも、あの日の記憶も、完全には消えていない。
でも、紫耀と一緒なら、前に進める。
そう思えたから。
『うん……行く』
震える声が漏れるけれど、
頷いた瞬間、胸の奥が少し軽くなった気がした。
傘を二人で差し、玄関のドアを開ける。
冷たい雨粒が頬を濡らしても、紫耀が隣にいたから安心で。
差し出された傘の向こう、
まだ灰色の世界が、少し安心できるものに見えた。
足音が水たまりに跳ねる音に混じって、
私の心臓の音も大きくなる。
普段は、この程度の雨はどうってことない。
ただ、昨日のことがどうしても頭から離れなくて、
怖いと思ってしまう。
でも、怖いだけじゃない。
紫耀が隣で、雨音に負けないように…
ただ私の手を握ってくれる。
「大丈夫だよ。ゆっくりでいいから」
紫耀の声が耳に届くたびに、
少しずつ胸の奥のざわつきが落ち着いて。
怖い感覚は完全には消えないけど、今はもう一人じゃないって思える。
病院の建物が見えて。
今から…
紫耀の前で、医者の前で話さないといけないんだ。
そう思うと緊張で手が冷たくなってしまう。
でも、傘の下で繋がれた手をぎゅっと握る。
すぐに気づいて握り返してくれる彼の手の温もりが、
私に小さな決意をくれた。
『行こうね、ちゃんと話すから』
自分の声でそう言ったとき、
胸の奥に小さな光が差した気がした。
怖くても、泣きそうでも、一歩ずつ前に進むことができる。
紫耀と一緒なら、きっとできる。
雨の音が頭の中で大きく響いても、
手の温もりがある限り。
私はもう孤独じゃない。
紫耀と一緒なら、
あの雨も、特別なものじゃなくなるはず。
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作者名:Pino | 作成日時:2025年10月30日 0時


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