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車に乗ると、
窓の外でAがゆっくり手を振っていた。
スマホ越しじゃない、目の前の彼女の姿。
その距離がどんどん遠ざかっていく。
見えなくなった瞬間、
胸の奥にぽっかり穴があいたみたいで。
「……やっぱ離れるの、嫌だな」
なんて思わず呟いてしまった。
駅に向かう途中、
Aの今朝の仕草とか、
俺の隣で小さく笑った顔とか、
靴を履いてる俺をじっと見てた顔とか。
全部、何度も脳内再生される。
新幹線に乗ってからも同じで。
窓の反射に顔が映ると、想像以上に表情が緩んでいる自分がいた。
A、寂しくないかな。
ちゃんとごはん食べて、元気に過ごしてるかな。
今日は冷えるけど…あったかい格好して過ごしてるかな。
ただの心配では収まらないくらい、
頭の中はAのことでいっぱいで。
これからライブだっていうのに、
ライブのことなんて考えられないくらいで。
あの子の全部を知りたくなる気持ち。
少しでも離れると、
昨日まで当たり前だった一緒の朝が恋しくなるんだもん。
次の日も。
スタッフの方々が会場の確認や衣装のチェックをしている中で。
俺はAになんと送ろうか、
いつ送ろうかと考えてしまって。
まだ朝が早いから…とか、
Aの負担にならない言葉でとか。
普段はほとんど連絡を取り合わず、直接会ったときに話すのに、
どうしてか連絡したくなってしまう。
彼女は俺の帰る場所をいつも守ってくれている。
心から安心できる居場所を、
一人の人間として気負わずにいられるようにって。
優しい笑顔も、笑い声も。
どれも愛おしいその姿を思い出して、
連絡したくなるのかな。
でもAは、
俺が頑張っていることをすごく見ていてくれる人でもあって。
それを気にして寄り添ってくれる。
負担をかけないようにって考えて行動する人だから。
頑張り屋さんで、
自分の体力や体調を顧みずに無理をするところがある。
だから…
心配させちゃうかも。って考えてしまうような連絡はしちゃいけない。
俺が彼女の負担になっちゃいけないって思う。
ちゃんとたくさんご飯を食べて。
家が汚くなるとか気にせず、せっかく一人なんだからゆっくりして。
もしも寂しいと思ってくれているなら、遠慮せずに教えて。
そんな気持ちが溢れるけれど。
長文を送ると、返信ちゃんとしなきゃって思うはず。
だから、短い言葉に全部込めた。
今日も大好き。
離れているから、少しくらい心配させて。
頼ってよ。…って。
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作者名:Pino | 作成日時:2025年10月30日 0時


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