Episode115:風邪2 You * ページ20
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朝の光がカーテンの隙間から差し込み、
リビングに柔らかく広がっていた。
小さな時計の針が出発時間を告げ、
ドアの向こうでは紫耀の準備する足音が聞こえて。
「A……行くね」
振り向くと、
玄関で紫耀が上着を整えて立っている。
髪は少し乱れているのに、
いつもの無邪気な笑顔はそのままで。
まだ少し寝ぼけている彼が愛おしく感じた。
『気をつけてね』
朝だからか小さくなってしまった声でつぶやくと、
紫耀は顔を上げ少し驚いたように目を見開く。
「A……一人でお留守番、大丈夫?」
『うん、大丈夫』
微笑みながら答える。
紫耀が安心して出発できるように。
今日からライブのため、家を空ける彼。
次に会えるのは3日後の夜。
もし上手く帰って来れなかったら5日後かも…なんて言われてて。
もちろん、少しでも楽しいライブになってほしい。
思いっきりファンの人たちと素敵な時間を過ごしてほしい。
でも心の奥では、寂しい気持ちも燻っていて。
『忘れ物ない?』
なんて、可愛くないことしか言えなかった。
「何かあったら、すぐ連絡するんだよ?」
「一人で無理しないで、ゆっくりしてて!」
「…っあ、時間ができたらたくさん連絡くれても良いよ?」
と紫耀が少し子供っぽく手を振る。
『うん、わかった笑』
私も手を振り返す。
こんな小さなやり取りでも、心がじんわり温かくなる。
紫耀が靴を履く間、私は無意識にテーブルの上を整えていて。
『昨日、片付けたけど……紫耀がいなくても綺麗にしておきたいな。帰ってきたときに、何も気にせずにゆっくりしたいもんね…』
聞こえていないと思ってブツブツ喋っていると、
紫耀が声を出して笑った。
「そんなこと気にしなくて良いのに…。Aがいてくれることが一番癒しになるんだし笑」
「そうやって無理するから心配なんだよなぁ…」
その言葉から感じる優しさと、
ほんの少しの不安を、離れている間忘れないように心にしまう。
玄関のドアを開ける音。
「じゃあ、行ってくるね」
『いってらっしゃい……気をつけてね』
紫耀はドアの向こうで立ち止まり、もう一度振り返る。
「A、忙しいからとか心配かけるからとか気にしないで、何かあったらすぐに連絡してよ?体調とか、無理しちゃだめだからね」
『うん、大丈夫だよ……』
恥ずかしくなって誤魔化すように笑うと、
紫耀はキラキラな笑顔でうなずいて出掛けて行った。
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作者名:Pino | 作成日時:2025年10月30日 0時


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