・ ページ11
⸻
Aが、
突然動けなくなったのは一瞬のことだった。
周囲の喧騒にかき消されそうな声で、
かすかに息を詰めて。
小さく肩が震えてた。
目線が泳いでて、たぶん……「今ここ」にいる感じじゃなかった。
俺は手を握った。
誰かに見られるかもしれないとか、そんなのはもうどうでもよかった。
それよりも…
今、ひとりにさせちゃいけないって思ったから。
「感覚過敏」っていう特性。
大きな音や怒鳴り声。
誰かが誰かを傷つけるような言葉を聞くと、
それが自分に向けられていなくても、心に深く突き刺さってしまう。
私は何もしてないのにね。
怖くて、どうしようもなく胸が痛んで苦しくなるの。
Aが教えてくれたときの、
その少し引きつった苦笑いを今でも覚えてる。
強い言葉や衝撃的な態度を見ると、
その“空気”ごと、自分が飲み込まれてしまうみたいに苦しくなるって。
共感力が高い。
人の痛みを自分のことのように感じ取れる…
それって、すごく尊いことだと思う。
でもその分、
Aは傷つきやすくて苦しくなりやすいみたい。
もっと鈍感になれたらいいのに。
何も感じずに笑っていられたらって、思っちゃうの。
そんな風にAは自分を責めるけど。
俺はそんなAが大好きで、
素直にすごいなって思う。
その繊細さこそ、俺が惹かれた理由でもある。
誰かが泣いてたら、誰よりも早く気づくA。
気づいたからってすぐに慰めるとか安易に言葉をかけるわけじゃない。
声を荒げる人がいれば、そっと離れて自分を守れるA。
それは逃げとかじゃなくて、一歩引いたところからその状況を知ろうとしているから。
何も言わなくても、手の温度で気持ちを伝えられるA。
その存在が、言葉じゃない温もりを伝えてくれる。
そんなAの優しさに、何度も救われてきたのは…
俺の方だった。
だから。
Aが苦しくなる時は、俺が隣でちゃんと受け止めたい。
繋いだこの手が、安心できるものになっていたい。
「一人じゃない」ってAに伝わっていてほしい。
人気のない場所に向かって歩く。
その道の中、俺は手を握りながらそんな願いを込めていた。
Aが俺を見て、
少しだけ肩の力を抜いてくれたのが嬉しかったよ。
ちゃんと今、Aを助けられてるって思えたから。
だけどAにとって、
次の試練がやってきたのは…
俺のせいだったかもしれない。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Pino(プロフ) - momoさん» コメントありがとうございます💕お気に入りと言っていただけて光栄です!!毎日読み返してくださっているんですか😳ありがとうございます😭 #7公開、もう少々お待ちください💦 (8月14日 17時) (
レス) id: 19cca15044 (このIDを非表示/違反報告)
momo(プロフ) - #6おつかれさまでした!どのお話もお気に入りです♡毎日読み返してます☺️#7も楽しみにしてます! (8月14日 10時) (
レス) id: b62c2f6570 (このIDを非表示/違反報告)
Pino(プロフ) - わんこさん» なんて嬉しいことを🥺ありがとうございます!!病気は、なかなか周りから理解が得られなかったり違う受け止められ方をされていたりすると、孤独で苦しいものだと思うので…。できる限りリアルで、正しい描写ができるように心がけています✍️ (8月10日 23時) (
レス) id: 19cca15044 (このIDを非表示/違反報告)
わんこ - なんでこんなにリアルに書けるんですか⁉すごすぎます!続き楽しみにしてます(^▽^)/ (8月10日 16時) (
レス) id: 7371aa6456 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Pino | 作成日時:2025年8月2日 23時


お気に入り作者に追加


