願えない幸せ ページ22
「ちふ、ゆ…っ」
「なに」
「ゃめ…っ」
首だけ振り返れば
男の表情をした千冬が私の肩から、唇を離した。
「A」
「ぇっ…？……ん」
突然、覆いかぶさるように私の唇に触れた、千冬の唇。
驚きのあまり押し返す事も、忘れていた。
それはおろか、あまりに優しい口づけに、自然と瞼を閉じた。
そっと離れた唇。至近距離に千冬の顔。
「ちふ…」
「帰んぞ」
千冬に手を引かれ、タクシーに乗り込み、
自分が着ていたジャケットを私の肩にかけた。
未だにうるさい心臓。
さっき…、キスした…よね…？
あれ？ちょっと待って。
彼女はいない。
だけど、沙羅ちゃんの問いかけに『あぁ』って
返事をしたって事は、好きな人はいるって事？
好きな子がいるのに、どうして私にキスしたの？
どうして抱きしめたの？
「あの、千冬…」
「帰ってから話そ」
「……わかった」
窓の外を眺める千冬の前髪が、風に遊ばれてる。
一度もこっちを見てくれない。
後悔してる？
家に帰ったら、『ごめん、酔っ払ってた』とか
抱きしめた事も、キスした事も、謝罪を受けるのかな。
着いた先は、千冬宅。
ソファに座り、「とりあえず、飲み直すか」って、ビールを渡された。
お互いちょびちょびお酒を飲みながら無言。
初めて千冬といるこの空間に、居心地の悪さを感じた。
そんな事お構いなしに、千冬が口火を切る。
「俺に、何か聞きたい事ある？」
「……ある、かな」
「何でも答える、何？」
「沙羅ちゃんとは…」
「何もない」
本当に、何もないんだ…。
「彼女はいないけど、好きな人はいる…？」
「いるよ」
「……」
「もう十年近く片思いしてる」
「……っ」
あぁ、ダメだ。
やっぱり聞くんじゃなかった。
喉の奥が狭くなって、上手く息が出来ない。
千冬も高校の頃から、ずっと好きな人がいたんだ。
ずっと傍にいたのに、全然気付かなかった…。
沙羅ちゃんじゃないなら誰…？
だけど、聞けない。
お酒のせいもあってか、今日は涙腺がおかしい。
また汚い泣き顔を晒す前に帰ろう。
「そ、そっか！叶うといいな！千冬の恋！」
「あのさ、」
「ごめん、帰るね！飲み過ぎちゃった…っ！」
「は！？」
まだ、千冬の幸せを願えない。
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えりちゃん - はじめまして！千冬の小説の中でいちばん大好きです♡︎ʾʾ (6月5日 9時) (
レス) @page50 id: 84c92b84c7 (このIDを非表示/違反報告)
いぬ？ - ずっと泣いてました。涙腺しにました。千冬くんのこともっと好きになりました。 (2022年11月5日 12時) (レス) @page50 id: dc4cbab92b (このIDを非表示/違反報告)
華ノ子(プロフ) - 泣きました〜( ;ᯅ; )matsuriさんの作品本当に好きです… (2022年7月29日 2時) (レス) @page50 id: 71c3cf5627 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃみさん(プロフ) - 本当にいつもどの作品もmatsuriさまのは素晴らしいです。もう素敵すぎて逆にしんどいです笑 三ツ谷読みたいので、次作楽しみにしております！でもたまに灰谷兄弟の更新もお願いします笑 (2022年7月7日 13時) (レス) @page50 id: e87bae8502 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 初コメ失礼します ! matsuriさんの作品、とても大好きで毎日読んでいます。今回の作品も最高で更新されるたびわくわくしながら読んでいました。この度は完結おめでとうございます！次回作もあらすじ読んだだけでもうすっごく楽しみです！暑いので体調にはお気をつけて！ (2022年7月6日 1時) (レス) @page50 id: d402d271eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：matsuri
| 作成日時：2022年5月23日 18時
