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「ロベル姉さん、これで良いの?」
「あぁ、ありがとうな、ヴァル」
ヴァルことヴァレリー・シャムロックが紙袋を手渡すと、ロベルティーネは頰を緩めて礼を述べた。紙袋の中にはパンが数個程入っており、今日の朝食の主食となる予定の物だ。
「おい、シャルロ。少しは手伝えよ」
「えー。てか、そもそも此処に来たのは本返しに来ただけじゃん。手伝う義理無くない?」
「お前はつくづく気を使わんな……」
ヴァレリーの説教にも耳を貸さず、傍に置いた本──ジャンルは推理小説。有名所の作家ではないが、一部のマニアがこぞって賞賛している。今作はその作家が書いた処女作にして絶版となった作品である──に視線を送る。そして、此処ぞとばかりに「それに、その燃料で作った飯は食いたくないわ」と小言を挟んだ。
今、スープを温めているこの焚き火は昨日、男──確か、新聞ではエドワードと言う名だっただろうか──に襲われたあの時、引き連れていたあの二人の衣服を燃料にしている。本体はドロドロと蝋燭の様に溶けて消えてしまったので、新聞で取り沙汰される事はなかったが、証拠隠滅の為に回収した衣服だけはこうして燃やされるまで残っていたのだ。
そんな事情があるとは露知らず、シャルロは皮肉めいて「相変わらず仕事がお速い事で」と呟いた後、本から目線を切って、教会の玄関先を見つめる。
「後さ、
シャルロが親指でちょいちょいと指差す方向にはダサい格好をした男が、スケッチブックと鉛筆を携え、教会の玄関先に咲く花の絵を描いていた。言わずもがな、それはメルヴィン・A・ブレインその人である。
彼は至って真剣に花をデッサンしているのだが、初対面である二人には異様な光景に見えた。ヴァレリーはシャルロの背後に隠れる様にして、ロベルティーネに問う。
「もしかして……恋人とか?」
「えぇ!? マジなのオッネーサン! 俺、誤解されない!?」
「あんな奴、こっちから願い下げだ」
それに便乗したシャルロだが、彼女はバッサリと切り捨てた。
ロベルティーネ自身、そう言った感情や関係に疎く、更に言えば、とても縁遠い話でもある。そもそも女として扱われる事を嫌う彼女にとって、恋愛等と浮ついた感情に現は抜かす暇は無いし、男女間に生じる独特の甘い空間にも興味は無かった。
それは少なからず、彼女の生きてきた軌跡──誰も知らない、知る事もない──が、それを物語っている。
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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月18日 21時